終末ゲシュタルト

 秩序の綻びが、巨視的なレベルにまで達している。人々は、幾万世代も前から受け継がれた、法秩序の在り方に疑問を抱き始めている。彼等の秩序に対する目は、ゲシュタルト崩壊とも呼べる、困惑と倒錯に満ちていた。

 彼等は積極的に議論し合っている。そこへ秘かに送り込まれた諜報員は、彼等の一部が大規模な破壊工作の決起を提案していると報告した。

 また、この法秩序に精通した学者、政治家等の、この危機に対する考察によれば、恐らく幾万世代の間で堆積した歴史――これは社会の不変性を証明しており、教育課程に置いて人々はこの長きにわたる不変に対し、違和感を、否、恐怖心を抱き始めた。そして、この恐怖心を分かち合った彼等は、彼等が認識すべき絶対秩序を、それとは似てもつかない秩序の胚種如き物、即ち、幼年期の人類が歪ながら組み上げた秩序と同等な物として錯誤的に認識し(ひとつのゲシュタルト崩壊)、『この世界は歪みに歪んでいる。我々が正さねばならない』と、誤った確信を得、それは一種のパラノイアへと変化、グローバル的に波及して、今のような、秩序崩壊の目前に至った、と。

 完璧だった筈の秩序形態が、まさかこのような――まるで某国の諺『塵も積もれば山となる』を援用したような形で、瓦解を余儀なくされるとは。

 秩序創成時の先人は『この教育的かつ楽園的秩序が崩壊するなどあり得ない』と確信していたが、所詮彼等も時の人――産業革命が始まってからほんの五百年も経たない、激動の時代、人類の幼年期を駆けた人々であり、このように長きに渡って不変的な世界に潜む、新形態な終末事情の存在は推察し得なかった。

 この世界は終わりだ。永遠に続くと思われた安寧秩序は崩壊し、人々はまた暗黒の時代を駆けてゆく。

 彼等は不変の平和を拒み、半端で怠惰な、暴力蔓延る歪な世界を選んだのだ。

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