容疑者③、マクスウェル
3人目、最後の容疑者は、日江さんの隣の部屋のマクスウェルさんだ。イギリス出身だそうだ。
「キャンユーアンダースタンドマイワーヅ?」
草辺先生は英語が出来ない。
伝わるのかと心配だったが、マクスウェルさんはこう答えた。
「黙れ。」
それほど寒くないというのに体格が分からなくなるほどトレンチコートを羽織り、深く帽子を被ったサングラスにマスクの彼は、流暢な日本語で話し出した。
「私は今回の事故について何も関与していなければ認知もしていない。よって貴様等に語るべきことは何も無い。お帰り願おうか。」
ただでさえチェーンをかけたままのドア越しに話していたのに、バタンと大きな音を立てて閉められてしまった。
「あの人、何かありますよね。」
「いや、無いかもしれない。あるかもしれないが、それは彼女であったり子供であったり彼氏であったりするかもしれない。」
「いや、そういうのじゃなくて。って彼氏……」
「確かに彼は怪しい。殺し屋のような気もするし、スパイにも見えるし、そう見せかけてバレーダンサーや宗教家や塩こうじ職人である可能性も否定できない。」
「はいはい、そうですね。」
面倒になった。
「あの、大家さん。ちょっと。」
「どうしたんだい?」
「言いづらいんですが...ここ変な人ばっかりですね。」
「あはは!そうだねぇ。でもあいつらと出会ってもう何年も経つからねぇ。なんやかんやで信頼はしてるんだよ。みんなあたしの子供みたいなもんさ。」
さて、ここで1度情報をまとめてみよう。
完全な密室殺人。死因は複数箇所への致命傷レベルの刺し傷で、自殺は不可能。
凶器のナイフは現場に残ったままになっており、指紋は被害者のもののみだった。
容疑者は、3人。
隣の部屋の、薄汚くてどもって話す白岳さん。
真下の部屋の、ピエロのような外見でナイフをジャグリングする日江さん。
日江さんの隣の部屋の、外国人なのに流暢な日本語で話し、姿を極力見せないようにするマクスウェルさん。
全員ほとんど面識がないとのことだった。何のための事情聴取だったのだろう。
「とりあえず、犯人はあの3人の誰かだと思います。というかあの3人は何かの犯人だと思います。」
証拠は無い。でも確信はある。怪しさのパロメータがMAXを振り切ってる人達だ。
「うん。分かったぞ。」
唐突にそういうので、一瞬何のことか分からなかった。
「……え?先生?今なんと?」
「この事件の真相が分かったんだ。関係者を集めてくれ。」
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