「メス」「ハサミ」「汗」

ゲッ。

緊急で来た患者さんを見て思う。これはすっごいケガ。ケガって呼んでいいのかってくらいすごいケガ。

先生に知らせに行かなきゃ。


「先生、急患です。」

キリッとした口調で言う。クールぶる私。ここに来た時から無理してクール演出してたけど、後悔しまくってる。やめときゃよかったのに。

「分かった。すぐ行く。」

あーー。だから!有能だ、くらいの感想しか持たれないのよ、まったく。

先生が白衣をはおる。バサッ。うわぁかっこい。いつも見てるけどやっぱかっこい。ヨダレでる。






キラキラした目で先生の後ろ姿を見ながら廊下を歩く。後ろから見てもかっけぇ。何?360度どこから見てもかっけぇの?すげぇ。フィギュアにしてぇ。いやプラモデルにして組み立ててぇ。じゅるるる。

「患者の様子はどうだ?」

ハッ。ヤバイヤバイ。見惚れてた。ヨダレも出てる。うわ、出てる。出てはないと思ってたのに。出てはないと思ってたのにぃ。

えっと。

「交通事故による複雑骨折。内臓にもダメージが入ってます。1番危険なのが、網膜に損傷が見られることです。」

どうよ?クール女子。クールアラサー女子だけど、クール・アラサー・ナース女子ですぜ。

「目か……失明の危険性は?」

はいはい、知ってましたよ。どうせあたしのことなんか眼中にも無いんでしょ。女とも思ってないんでしょ。いいですよーだ。

「回避しようがないかと。」

「ふむ...この際、諦めてもらうことになるかも知れんな。家族の了解は取れているか?」

「患者の身元が分からず、取れていません。」

「自己判断、か…」

そしてブツブツ呟き出した。くそ、なによあんな男。でも物憂げな表情もス・テ・キ。ぽっ。なにやってんだろ、私。




手術中。これこそ徳田先生の本領発揮。なんてったって、外科手術においては権威中の権威。世界的にみても屈指の腕前を持ってるのに本人は至って謙虚で、その謙虚さがたまらん。


「こりゃあ……目はもうダメだな。」

おふぅ……割とグロッキーな話…… でもそのグロさに打ち勝ってる。基準は分からないけど私は勝ってるとみた。WINNER!Dr.Tokuta!!


「悪いが、命を優先させてもらう。」

きめ、決めゼリフ!?くらり。いや別にホントにバランス崩したワケじゃないけど。


「メス」「ハサミ」「汗」

あー、頼りにされてるって幸せぇ。汗ふいたタオル持って帰りてぇ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る