Anysha By.Roland Kirk
お客さんが居なくなった店内を見て、ふぅ、と深呼吸しました。さて、掃除でもしようかな、まずはショーツクルの倉庫からかな、などと思ったその時、またしてもドアが開きました。
「いらっしゃいませ。」
こんなペースでお客さんが来るのは、かなり珍しいことでした。気分も自然に上がります。
「そうだな。さっきの人が飲んでいたものでも貰おうか。」
そう言いながら、サングラスをかけたお客さんは席に着きます。
ショーツクルが1日に3杯分も無くなるなんて、それこそ滅多にないので、来月は仕入れる量を増やそうかな、と思いました。
飲み物を出すまで、お客さんはじっと動かず、声も出さずに待っていました。職業柄、人を観察していると大体どのような人なのか分かるのですが、この人には普通と違う暮らしをしているという直感が働きました。態度には表れないものの、何かにソワソワしている空気がしたり、殺気に近いオーラを出していたからです。
飲み物を出した時も、少し警戒されました。
「味は確かなんだろうな。」
と。
「私が作ってるんですよ?」
と、ユーモアを交えて返すと、彼はコーヒーを飲みました。いえ、正しくは飲もうとしました。
「熱っ。酒では?」
あろうことか、黒いコーヒーを見て、酒と間違えたと言うのです。何故だろうと思い、もう1度サングラスのお客さんを見た時、ある可能性をひらめきました。訊くのを少しためらいましたが、やはり訊いてみることにしました。
「もしかして、お客さん。……目が……?」
お客さんはこくんと頷き、最近事故で失明したと告げました。
「そうですか……お気の毒に……」
そういえば今日、お医者さんが失明させてしまったと嘆いておられて……と言いかけましたが、止めました。盲目の人にわざわざ言う話題でもありません。
それに、事故ということにも気になりました。本当は喧嘩や何かで……いや、それも考えないでおくことにしました。
ぐいっと一気に飲み終え、精算やなんやを済ませ始めたので、急いで考えて言いました。
「目が見えないのは辛いでしょうが、辛さを忘れられるくらい楽しい人生を送られることを願っています。」
「そうできればいいな。ありがとう。」
お礼の言葉を残し、お客さんは帰っていきました。
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