Root Doctor Blues By. Doctor Clayton

またぼんやりとしていると、常連の徳田さん

がやって来ました。

5、6年前から通ってくれている、近くの病院のお医者さんです。今日は、どうやら悩み事があるようでした。


「私にもっと腕があれば……」

オリジナルのカクテルを飲みながら、溜め息を漏らしていました。心配して私は声をかけます。

「まぁまぁ、そう落ち込まずに。目は残念でしたが、あなたは命を救ったんですよ。」

今日やった手術で、患者の一命はとりとめたものの、失明させてしまったとのことでした。

徳田さんは、とても責任感が強い人です。それはお医者さんとしてはとても大事な事なのでしょうけれど、時々こんな風に押しつぶされそうになることがあるのです。

そのことを口に出し、続けました。

「重い物は1人では持てませんよ。皆がいるから軽くなるんです。」

私にもかつて、そんな時期がありました。自分がしていることが正しいのか、それとも間違っているのか。でもそんな事は気にしなくていいんです。仲間がいることに気付くことが、いちばん心の慰めになるのです。

「……そうか。」

見ると、その顔はすっかり爽やかになっています。彼は代金を多めに渡してゆき、店を出ながら言いました。

「なんか、軽くなったよ。」

その足どりは、入ってくる時のものよりも明るくなっていました。

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