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「私にもっと腕があれば……」

仕事終わり、徳田は行き付けのバーで溜息をついた。

「まぁまぁ、そう落ち込まずに。」

慰めの言葉を掛けたのは、店主の初村だ。

「目は残念でしたが、あなたは命を救ったんですよ。」

「しかし……私は...」

「ずっと見てきましたがね、徳田さん。あなたはすぐ全てを抱え込んでしまうクセがある。」

初村は徳田より二回りほど年上で、命に関わる仕事をしている訳でもない。それでも、自身に能力が足りないことを嘆く気持ちは充分知っているようだった。

「重い物は1人では持てませんよ。皆がいるから軽くなるんです。」

「……そうか。」

カランと音を立ててグラスの中の氷が揺れた。鞄を取り上着を着て、財布から札と硬貨を取り出し、テーブルに置く。立ち上がりながら言った。

「ありがとう。これ、お釣りは相談料ということで。」

「ありがたく、もらっておきます。」

店の戸に手を掛け、出ようとする寸前、徳田は思い出したように、

「なんか、軽くなったよ。」

小さなバーの店主はニコリとし、軽く頭を下げた。出る為に開けられたドアに誰かが入っていく。外は涼しかったが、寒くはなかった。

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