康寧

れにしてもおどろいた。命を助けられた医者が晴人の元の飼い主だったとは。之も運命さだめという物なのか。


脚の疵口きずぐちを止血して貰い、病室で安静にしておく。

徳田医師が入って来たので、ず訊いてかなければらない事を訊いて於く。

「イルカさんですが……」

殺し屋の海豚イルカともに搬送されて来たのだが、如何どうしたのだろうか。

「今は安静にしてもらっています。が……実は、頭の打ちどころが悪く、記憶喪失に陥っています。」

し其れが真実ほんとうで在れば、好都合だ。何方どちらにせよ決定的な証拠など無かったのだ。

傷害罪でつかまえる事は出来るが、殺し屋として今迄いままでして来た罪は問えない。

とすれば、最良なのは只管ひたすら監視下に置く事だ。記憶を思い出させ、其れを吐かせる。効率的では無いにしろ、之しかない。


考えを医者につたえると、彼も同意見だった。しかながら、医者としては失明させてしまった上に記憶喪失にまでさせてしまった患者。境遇も同情の余地があると、証拠が出て来る迄は牢屋にむのを止めて欲しいとの事だった。

いささか考えた結果、其れに従う事にした。生命いのちを助けて貰った身であり、また晴人は彼から譲り受けた様な物だ。


徳田医師には、海豚イルカを置いて於くてが有るそうだった。

何処どこか訊こうと思ったが、止めた。怪我で動きたく無かったし、考えるのも億劫おっくうだったからだ。彼奴あいつよりも軽い傷なのだが、殺し屋程は動き回れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る