【1】

見えなかった。見えなくなっていた。

いつからかは分からない。もっと言えば、自分の名前も分からなかった。

僕は、視力と記憶を失っていた。



可哀想だと同情してくれる人もいるかもしれないが、されたところで仕方ない。記憶を失う前の自分の行動にバチが当たったのだろう。



イルカさん、と声をかけてきた男の人がいた。

きっと僕の名前だろう。

彼の話によると、ケンカをして頭を打ち、視力と記憶を失ったという。やはり自業自得だった。


彼は医師らしかった。彼こそが僕のケガを治してくれた医者なのだそうだ。ここはケンカの治療をしてくれた病院。


また、いくつか質問をされた。何を覚えているか、どこの記憶まで残っているか。

何も、どこもというのが僕の答えだった。強いて言うなら、一般常識はあったし、箸も持てた。そういう種類の記憶喪失もあるそうだ。



こちらからも、前の僕はどんなだったかとか、これからどうするべきかとか、色々質問したが自分で考えるしかないようだった。




とにかく大事なのは、これからどうするかだ。

記憶がないのはともかくとして、目が見えないのは仕事に就くのにとても不利。そんな人を雇ってくれるところはあるのだろうか。


結局そんな心配はいらなくて、お医者さんが仕事を見つけてくれた。優しい人だ。

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