73-40-5
徳田は、家へと向かっていた。仕事を終えた帰りだが、翌日の仕事に備えて休養は取らなければならない。突然、一晩かかる大手術を任される可能性もゼロではないのだ。
しかし、この日は満足に眠ることはできなかった。病院から着信が来たからだ。
「せ、先生!患者さんがいないんです!!」
那須の声だった。切迫した状況がよく分かる。
徳田は尋ねた。
「患者とは、どの患者だい?」
「イルカさんです、ほら、今日の手術の!」
あの失明した患者だ。とっさに原因を考えたのは、医者の習性だろう。
視力を失い、希望を絶たれた。生きていく価値を見い出せなくなり、それならばと死を選ぶ。しまった、もっと厳重に監視しておくべきだった。後悔に駆られる。
そうだ、と思い出して言う。
「確か今日、その患者に警察の方が話を聞きに来ていただろう。その人に連絡してくれ。」
「分かりました!」
プツン。電話を切る。考えるよりも早く、徳田の足は患者を探しに出ていた。
病院のある方角へと走りながら、ブツブツと呟く。
「……さほど遠くへは行っていないだろう...治療はしたが、怪我だらけの患者だ。走ったり自転車に乗ることは難しい……それに、お金を持っていないので交通手段はほぼ絶たれることになる……」
また、頭に周辺地図を思い浮かべる。
「近くに川や高い建物は無いし……あるとすれば病院だが、そこではないはず……窓は強化ガラスで鍵が掛かっていて、屋上のドアも開けられないようになっている。恐らく患者もそれを見越した上で逃げ出したのだろう……」
人通りの少ない路地。公園。遊歩道。色々考えて色々探してみたが、見つからない。
時計を見ると、かなり時間が経過していた。時が経てば経つほど探すのは困難となる。
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