異世界初の食事

「はい。王都名物。ミニタイガーの串焼きだよ...って二人ともどうしたの?」


ファーマさんが夕食を持ってくる。が、気まずい空気は未だに続いているので恐らくバレたのだろう。しかし忘れるといったのだ、ここで変な雰囲気を作るわけにいかない。


「おぉ!ルーナ!これすごい美味しそうだな!」


無理やりルーナに話を振り「僕たちいつも通りですよ」と言う感じを作る。それをルーナも察したのだろう。ぎこちない笑顔を作り手をたたいて喜んでいる。


「...なんだぁ。勘違いかぁ。もっと持ってくるから待っててね!」


どうやらやり過ごせたようだな...変なところで敏感じゃなくて助かった...そう思いながらミニタイガーの串焼きを口に運ぶ。すると、口の中でとろける様な脂があふれ出した。


「なんだこれ...脂がのっててめっちゃおいしいっ...」


感激で思わず口から素直な感想が零れ落ちる。これは日本じゃ食べたことのない味だ...しかも黒毛和牛のステーキなんて目じゃないくらい旨い...

思わず更に口へと運んでいく。そんなふうに異世界での初の食事を堪能していると、別の料理が運ばれてきた。


「次はこれ!ゴールドバスのムニエルだよ!」


そう言って金色に輝く魚のムニエルを運んでくる。これも期待を胸に弾ませ一口食べる。すると、ミニタイガーの串焼きとはまた違う味が口の中に広がった。

香ばしい...そうその一言に尽きる。これもまた次々と口に運んでいき飲み込んでいった。

気づいたら、気まずい空気などは消え、普通に話すようになっている。料理の力。恐るべし。

そのあとも次々と料理が運ばれてきた。量にしたらおそらく五人前くらいだろうか。だが、あまりにも美味しかった為、ルーナと俺の二人ですべて完食させた。ま、ほとんど俺が食べたのだが。

食事中に聞いたが何でもこの味がいつも通りらしい。異世界の料理は食べてて飽きなさそうだな。また一つ楽しみが出来たぞ。

そして料理の波も落ちつき、俺たちも落ちつき始めたころ、またファーマさんが何か紙を持ち、こちらに来た。


「は~い。それじゃあ何日間泊まるか登録するね。どうする?何日間にする?あ、これが料金表ね」

「あ~そっか。まだだっけ。ちょっと見せてください」


忘れてた。まだ登録してないや。何日にするか...

ひとまず料金表を見て、考える。

一泊銅貨一枚か...レートが分からん。俺の持ってる金って王国金貨百枚だ。足りるかどうかわからないけど...


「ルーナって何拍で登録してるの?」

「えーとですね...確か一か月単位で登録してますよ」


じゃ。俺もそういう風でいっか。軽く決め、お金を出す。


「じゃ。僕も一か月で」

「は~い。了解。銀貨三枚ね」


そう言われたので王国金貨一枚を手渡す。すると、ファーマさんは腰を抜かした。


「ファ...ファーマさん!?」

「そそそそそそそ...蒼河...!?アンタ...ウチの年収より多い金をポンッと出すって...どどどどどどどんな神経してんのよ!」


何か知らんが怒られた。これ、結構な大金なんじゃないだろうか。ルーナに百枚上げて驚いてたけどそういう理由か。これ。てことはおつりも酷くなるのは確定事項...めんどくさそうだな...


「おつりがめんどくさいので貰っちゃってくれていいですよ...おつり酷いことになるんでしょう?」


半分呆れた声を上げ、ファーマさんに料金表を返す。すると、感激という目でこちらを見つめてきた。


「蒼河!ありがと!これで古くなった椅子とか全部買い替えられるよ!」


むむむむむ...本格的に金のレートを調べなきゃマズイぞ...これだと成金状態じゃないか...ルーナにでも教えてもらおう。

その後、ルーナやファーマさんと談笑した後、各自自分の部屋へ戻っていった。

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