宿屋にて
ギルドから徒歩五分。少し歩けば着くほど近い場所に宿屋はあった。外観は、他の建物と同じく石レンガを基調とした物である。
しかし他の建物よりは大きくはなっていた。流石宿屋。
俺は、初めての宿屋に少しウキウキしながら扉を開けた。
「いらっしゃいませー」
元気のある声でカウンターのお姉さんにあいさつをされる。若干驚いて少し後ずさったが後ろからルーナが顔を出すとお姉さんが顔を変えた。
「おー!ルーナ!おかえり!」
「ただいま。ファーマさん!」
ギルドに居たときよりも遥かに元気よく挨拶するルーナにさらに驚く。それにしてもこの二人仲がいいな...ファーマさんか。覚えておこう。
「んで。そっちの人は?」
ファーマさんが不思議そうにこちらを見てくる。自己紹介をしようと言葉を発そうとしたとき。ルーナが代わりに声を発した。
「さっき話した戦闘中に私を助けてくれた、雨月蒼河さんだよ!」
「おぉ!そうかい。そうかい!」
そういうとファーマさんがこちらに近づき、手を握ってブンブン振りはじめた。
「うちの大事なお客さんを助けてくれてありがとー!」
「え...?いや。まぁ当たり前のことですよ。助けられる範囲にいましたし。」
やんわりと握られた手を外し、笑顔で言葉を返す。多分二人とも家族みたいな関係なんだろうな。ルーナの両親は亡くなったらしいし。
「それじゃあ案内するね!蒼河さんはルーナの部屋の隣。ついてきて」
スイッチを切り替えたのか宿屋の店員として部屋まで案内しようとするファーマさん。しかし、俺はここで一つ違和感を覚えた。
「そういえばファーマさんは俺のことを雨月だと思わないんですね。こっちじゃ見ない名前の付け方だそうですけど。」
「ん?まぁ前にも同じような名前の人がいたからね。なんでも極東の国出身らしいけど...アンタもそうじゃないの?」
「え?あぁ...ま、そんなところです」
まじか...同じような名前の付け方をする国もあるんだな。
予想外の返答に少し焦っていると部屋の目の前に着いた。
「さ、ここが部屋だよ。これが鍵。出入り自由だから。会計は夕食の時にね。」
「はーい。」
鍵を渡され、なくさないように服のポケットに入れる。よし。これで準備オッケー。異世界での暮らしの収入源を手に入れるだけだけど...ま、冒険者として生活も有りかな。
「準備終わったみたいですね~!それじゃまた夕食の時に会いましょう。夕食の時間になったら部屋をノックするので!」
「うん。ありがとう。」
ルーナに別れを告げて、部屋の中に入る。部屋の中は8畳くらいの大き目の部屋だった。十分すぎる部屋の大きさだな。
ここに来てドッと戦闘の疲れが溢れ出た。意識が霞んでいく。限界だと思ったときには既に意識が闇へと落ちて行っていた。
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