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「よう、真白」
血にまみれた自身に触れて秦は目を伏せた。
「……」
言葉にできない。何があったのかは容易に想像できる。
だけど、言葉にしたくない。
血だまりの中から歩き出る秦をただ見ていることしかできない。
「これじゃ外に出られないよな」
いつもとは違う感じでくすりと晒わらいながら、彼は話しかけてきた。
「メール返せてなくてごめんな」
そういうことじゃなくて。
どういうこと? と聞き出せない。
迂闊に聞くと今まで積み重ねてきた何かが崩れてしまうような気がした。
「ほら、部屋はこんなだけど俺はなんともないんだぜ?」
死、屍体らしきものはない。
誰かを殺したようではないらしい。
ならこの部屋中に飛び散った血飛沫は。
秦をまともに直視できない私は恵梨香が言っていた手首に目がいった。
傷。切り傷。
両手首にあるソレは十字に切り刻まれていた。
しかし、治っている。
少なくとも──今日できた傷ではないほどに。
認めがたい事実。認めるのが恐ろしい。
「俺さ、異常体質みたい」
そう言いながら目の前で……。
手首にカッターを当て。
スーッと軽く、そして深く切って見せた。
痛々しい光景。思わず目を瞑る。
「ほら、みてみろよ」
認めたくないが、全てをしっかり受け止めなければならない。私は決心し、目を細めて見た。
「なんてこと──」
血は──もう出ていなかった。
瞬く間に傷跡が再生して元通りになる。
気持ち悪いくらいに、きれいに。
無意識に、手首から目を逸らす。
逸らした先の血だまりには、うっすらと微笑む秦の顔が映っていた。
「な? 気持ち悪いだろ?」
彼は話し始める。
立ち尽くす私を横に、いつからこうなったのかを。
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