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「今日は秦君おやすみです」


 先生からの一言で私は予感が的中したと悟る。そうそう休まない人だ。今まで無遅刻無欠席の皆勤賞を続けてきた秦が休む、それ自体、私の中では事件である。


「もしかしたら昨日の怪我の影響かしらね」先生は続けて言う。


 違う。そんなことで休む秦ではない。

 胸騒ぎがして、携帯に連絡を入れる。

 数分たっても連絡は返ってこない。

 あげく、快晴だった天気すら悪くなる始末。

 またもや雷雨で、もしかすると夜よりひどいかもしれない。

 おそらく、秦と天気の関係について知る人は私をおいて他にないだろう。妙なフラストレーションを抱えていると恵梨香が声をかけてきた。


「大丈夫? 秦君のことでしょ?」

「やっぱりわかる?」

「みんな気づいてるわよ。あなたの秦君への感情は」

「ですよね……。今日はなんか嫌な予感がして」

「まぁね。天気も悪いしね」

「え?」思わず聞き直した。

「気づかない? 秦君って怪我が治るのが早いの。一昨日まであった傷が昨日には治っていたり。そして、その日に限って天気が変わる。今日みたいに」


 知らない。傷が早く治るなんて。


「傷って?」

「毎日ね、どこかしらに傷があるのよ。手の甲だったり、リストだったり」


 リスト? 知らない。何も知らない。


「リストカット……」

「本人はそれでいて何事もなく日常にいる。何かおかしいわ」

「うん、わかってる」


 例えオカルトであろうと、そのことに気づいてる人間が二人いる。それだけで信頼に足る情報だ。


「それにしても、よく見てるね」

「真白と秦君に限っては目立つから観察しちゃうのよ」

「私も見られてましたか……」

「ばっちりね」


 いずれにせよ、私は帰宅せねばならない。

 味方でいる、って決めたのだ。

 秦がそういう状態ならなおさら。


「先生、お腹が痛いので病院に行ってきます。止めても無駄です」

「なんてベタな」恵梨香が呆れる。

「いってらっしゃい」

「「ええぇ──」」


 クラスの皆も呆気にとられる。

 それもそうだろう。普通なら有りえないことだ。


「止めても無駄って言われたらねぇ」


 先生の温情に感謝しつつ。帰宅準備をし、さっさと帰る。

 勿論、体調の悪いふりをして。

 外は誰かが悲しんで泣いているかのような大粒の涙の嵐。

 天気が悪くなることは予測していなかったので、校舎を出てからは走って帰るが天気は悪化の一途をたどっている。

 冷たい雨。人を孤独にさせる冷たさ。

 もし、本当に天気が秦と関係しているなら恐らく、彼はずっと何かに耐えていたのだろう。私はそんなことにも気付かずにいた。

 そばにいる。味方でいる。

 なんて烏滸がましい。

 私は結局、一人だったのかな。

 涙が溢れそうになる。

 でも……今日はいい。

 雨がすべて流してくれる。 

 悔しさ。

 悲しさ。

 虚しさ。

 頼りになれなかった……寂しさ。

 それを思うと私の足はどんどん速くなる。

 一発くらい殴らなきゃ。

 自宅に近づく。自然と秦の家が目に入った。

 この豪雨にもかかわらず、秦の部屋の窓は開いている。

 予感はもっと悪くなる。

 私はインターホンを押さずに玄関に突撃した。

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