/6



               ◇


『君がこうなったのはもしかしたら僕のせいかもしれないね。もしそうであるなら、君の望みを条件付きだけど叶えてあげよう』


 誰かはそういった。

 周囲には何もない。

 ただ、泣いている少女と名前も知らない誰か。そして、私の三人。

 声をかけても振り向かない。どうやら、私の声は届かないらしい。

 先ほどまでは汗をかくほど暑かったはずなのに、ここは信じられないくらい肌寒い。けれど、とても穏やかで安心できる空間だ。


『君の願い、確かに受け取った。その代わり条件はこうだ──』


 誰かの声をうまく聞き取れない。

 へんなノイズが少女と誰かの会話を邪魔する。


「──へん─な───たみ─いだ」


 聞き覚えのある声。

 親しみのある語調。

 暖かさのあるトーン。

 そのノイズに導かれ、私は優しい光に包まれて、目の前が真っ白になった。


                ◇


 本日二度目の夢を見た。夢自体見るのが久々なのだけど、一度目に比べ気持ちは幾分楽だ。

 ただ、不思議な夢。泣いていた子が誰なのか、もう一人は誰なのか全く心当たりがない。なぜこんな夢を観たのだろう。考えても埒が明かないので気分を改め、カーテンを開け、窓と開ける。夜中の豪雨はどこへ行ったのか。お空ではまん丸の神様が微笑んでいた。秦の部屋は相変わらずカーテンで締め切られている。


「はやく学校に行こう」


 身支度を整え、学校に向かう。下校は一緒でも登校は別々な私たち。

 秦は寝坊助で、登校時間の早い私が行くと怒られる。

 今日は学校でどんな話をしよう。

 嫌な予感が当たらないことを願いながら、いつもの道を通って学校へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る