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 真夜中の雷鳴で夢から目が醒める。日中の天気が嘘のようで、雨は怒りに狂ったみたいに窓ガラスを叩き続けている。部屋中の空気がべっとりし、体がべとべとする。今日はいつになく寝汗がひどい。過去の夢なんて最悪だ。


「いやな予感がする」


 こういうのはオカルトかもしれないが、秦が怪我をした日の夜は必ず天気が悪くなる。そのことに気がついた時から今の所ほぼ間違いなしに天気は悪くなっている。100%だ。今日はいつになく不安だ。「虹」を観たからだろうか。

 カーテンを開き、窓から秦宅を見る。

 秦の部屋はまだ明かりがついている。

 何をしているかわからない。 

 安心できない自分がいる。

 夢といい、この天気といい、秦の怪我といい。

 人の直感は思ったより信頼できるという。特に、私の嫌な予感は。


「気になって眠れない」


 激しく降り続く豪雨と建物を揺さぶるような雷鳴に包囲され、私の落ち着かぬ心を具現しているかのようだ。

 私自身の事とも相俟って、いつもの精神安定剤である呪文も全く功を成さない。すべてが混沌としている。

 考えても始まらない。私は秦にメールを送った。


「今何してる?」


 返事は来ない。電気をつけたまま寝ているのか。

 5分。10分と時間は過ぎていく。

 私は携帯を投げ捨て、ベッドの上に仰向けになった。

 そして天井に顔を向け、


「秦がひとり、秦がふたり、秦がさんにん、秦が……」とりあえず数える。


 いつもの、いつも通りの笑顔で私の事を見守ってくれる秦を想像する。

 521人目の秦を数えた時、私は目を閉じ眠りについた。

 深い暗闇の中。孤独と不安を抱えて。

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