/回想



 これは、私が小学生で、まだ味方がいなかった頃の話です。

 アレはなんだったのだろう。お母さんからは「夢遊病」と言われ、気狂きちがい扱いされ病院に連れて行かれそうになるきっかけ、私が普通でありたいと強く思うようになった出来事。


 外からは小鳥のさえずりが聞こえ、カーテンから差し込む日差しで私は急に目が覚めた。雨が止んだ後だったのか、外には綺麗な虹が広がっていて、稀に吹く微風そよかぜが気持ちよかった夜明け。


「わぁ、綺麗な虹」


 その虹を見ると幸せな気分になり無性に何かお母さんの喜ぶ事がしたくて、ベランダに出て洗濯物を干していた。すると暫くしてすごい怒鳴り声が聞こえ、振り向くとお母さんが私の望んだ逆の顔をして立っていた。


「あんた、夜中になにやってんの!?」


 そう言われた途端、一気に視界が暗くなって、さっきまで見えていた虹、日差しはどこかに行ってしまった。

 予想外の反応に戸惑っていたら、グイッと強く手をひかれ、部屋の中に連れ戻された。その際、ぶつかった衝撃で洗濯物が入った籠はバランスを崩し、転がり、中身がぶちまけられた。その時の光景は、以前母が面白がってみせたスプラッター映画のグロテスクなシーンを連想させ悲しかったのをよく覚えています。

 その後は布団の上に正座させられ、物凄く怒られた。


「頭おかしいんじゃないの!」


 何度も言われて流石に傷ついたけど、今でもたまに言われます。それからは、普通であろうと努力しました。でも……。


 怒鳴りながら「あんたのことおもって」って言う。

 笑いながら「あんたのこえきらいだよ」って言う。


 おそらく、私の居場所は家ここには無い。普通でありたい、普通であろうとする私はこの家では普通に扱われない。ここで私のできる事は耐えること。

 そんな中、秦だけは話を信じてくれた。他の友達が気味悪がって遠ざかって行っても側にいてくれた。


「お前はおかしくない。笑ってる奴らの方がおかしい。だってお前は俺に嘘ついたことないもんな」


 そう言ってくれた秦は私にとって唯一のヒーロー。

 そういうわけで。誰にも見えない、私にしか見えない「虹」はとても綺麗なものではあるけれど、何かがあるたびに関係してくるソレは私にとって不吉で不安の象徴となったのです。しかし、味方のいなかった私に味方ができたきっかけを作ってくれた「虹」には複雑な感謝をしている。

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