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結果から言うと、傷は大したことはなかった。全然大したことはなかった。
傷もそこまで酷くはなく、秦自身も意識もはっきりしているし痛みも無いということで念のため病院に行ったけれど診断としてもただの打撲と擦り傷だった。
「おっす! 元気です」
5限目の終わり頃、皆の心配をよそに能天気な声がクラスに響く。
先生や私を含め、クラスの全員が安堵した。
轟音でぶつかって、流血もしているのだ。心配は相当なもので、特に私なんか涙が出てたんだからね。後で涙分の労力をどうにかして返してもらおう。
下校時間になると私たちは日課の散歩もあるのでそそくさと帰る。今日の空気は暑いが西日はやや優しい。枯れた草花はまだ刈られずに残って伸びていて、どうやら自分が枯れている事に気付いていないらしい。
「怪我したばっかりだけどさ、最近体の調子が頗すこぶるいいんだよね」
そう言う彼は、今日の出来事がなかったかのように調子が良さそうだ。
「今日は本当に心配したよ。どんなプレイしたらそうなるのさ」
「お前と同じよ。カットしてて、熱くなっちゃってさ。周り見てなかったわ」
「でもさ、最近怪我多くない? ワザとしてるんじゃない?」
冗談でいってみたつもりだった。だが、秦は自分の影を見つめながらしばらく呆然と立ち尽くした。その姿、表情は私にも覚えがある。嫌な事を思い出した時のソレだ。
「そんなわけねーだろ。どこのMだよ」そう微笑んで彼は言った。
きっと嘘だろう。十数年の付き合いだ。考えている事は分からなくとも、表情や雰囲気で察しがつく。でも深くは踏み込めない。これはパーソナルスペースだ。
「ならいいんだけど。何かあったらちゃんと言ってね? 私は秦の味方だから。秦がそうであってくれたように」
「よせって。恥ずかしいわ」
「ほんと、恥ずかしいばっかり」
「うるせー。早く公園行くぞ」
制服姿で公園を男女二人が散歩だなんて。それだけで十分恥ずかしいとまではいかなくても照れ臭いものだと思うけれど、そこで堂々としている秦はやっぱり私の味方で紳士なのだと再認識する。
何気なく空を見上げた。今日も雲もなく見通しは良い。眩しい光以外には、なにもなかった。カラスも、そして思い出したくない虹も。
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