第18話【ドラゴンと邂逅】
赤い竜の傷はここ数日でその殆どが癒えた。ならばあとは更なる力を得ることが必要だ。
己は喰らえば喰らうほど強くなれる。特に3日ほど前に喰らったあの2足で地面を這う白い肌の毛なし猿はかなり美味く魔力も大量に所持していたことを思い出す。
あの毛なし猿どもの内1匹は、更に西に逃げていった。あの猿共が多くいれば喰らい力にすることを決め飛翔の速度を速め西に向かって飛び出していった。
既にそこはヴァレイグの街から竜の速度で飛べば1日も掛からない距離だった。
リアも15日ほどの訓練で【アクアドール】を1体出すことに成功し今は展開したゴーレムを制御しつつ自分も戦いに加わる訓練をしている。
俺への借金はもう返し終え狩りにも付き合った結果すでに金貨2枚ほどの余裕がでて涙ぐまれながら感謝された。
1月もいらなかったかと思いつつそろそろ自分もお役目御免の日も遠くないだろう。正直もう良くないかとも思うけど。
「【フリージングジャベリン】!」
いつも通りの狩り、本日はDランクの大蛇シーサーペントとリアが遣り合っている。怪我なんて負う事がない【アクアドール】を突っ込ませ自分は魔法を使用する王道な戦い方で危なげなく進めていく。
リアの放った【フリージングジャベリン】がシーサーペントの胴体に直撃し皮膚を貫き内部で一気に凍結する。
身体の一部が凍結し思うように動けなくなったシーサーペントは前衛で氷の刃を携えた氷騎士が頭部に突きを放ち沈黙させた。
「やった!Dランク撃破だ。初めて勝てたよシオンさ~ん!」
この浅瀬の領域内でもっとも強いDランクを単独撃破だ。誇ってもいい、これで浅瀬は油断せずに行けばなんとかなることが証明されたわけだ。
ゴーレム制御も大体問題ないだろう。今回手に入ったシーサーペントの魔石を媒介にすれば更に強いゴーレムにもなる。
まだDランクは厳しいかもと思ったがこれは本当に俺は必要ないだろう。これ卒業試験だったことにしよ。これで問題ないね。
「よくやったよ、卒業試験は合格だ。まさかたったの15日程度で【アクアドール】を使いこなすなんてな。セフィーはやっとゴーレムを展開できるようになったばかりで戦闘できるほどじゃないってのに。無論完璧ではないが及第点だ。おめでとう。師弟関係もおしまいだな。今日は打ち上げだ!俺のおごりだぜ!」
有無を言わさない形で一気に捲し上げる。反論なんてゴメンだ俺は夏場は引き篭もっていたいってのにすっぽかそうと思うとコイツ家にきやがるんだ。これ以上は嫌だ自分でなんとかしてほしい。
「本当ですか…強くなれましたか?」
「ああ、自身を持っていいリアは既にDランクほどの実力がついた。あとは依頼を受け少しずつ実力にあったランクにするといい。宿にだって普通に泊まるだけの収入も得られるようになったろう?大丈夫だ」
俺はリアが倒したシーサーペントに近づき【フォース】で魔石を体内から回収、【アルケミー】で【アクアドール】の術式核になるように術式を刻んでいく。これで長時間の展開でも苦にならないゴーレムができるだろう。余裕があればもう一体ゴーレムを使役すらできるようになるかもしれない。
「これが卒業祝いだ。これを核に【アクアドール】を展開すれば今までより強く長くゴーレムが展開できるだろう」
「こんなものまで…ありがとうございます、絶対近いうちにDランクになってみせます!」
「ああ、がんばれよ!」
だからもう来るな。俺の生活かき乱されてばっかりだから。
『リアさん、ご卒業おめでとうございます。これで毎日のように会うこともできなくなりますね』
「アーシャちゃん…うん、シオンさんの期待に応えないと。でも毎日は会えないけど同じ街にいるんだから何時だって会えるよ!」
アーシャの馬鹿、余計なことを言うな。感動的な流れのままで終わっとけ。今度あのオープンカフェでケーキ奢ってやるから!
俺は努めて笑顔を保った、ここで白けた顔は空気が死ぬ。このままできれば終わりたい…。
と思っていると森が異常に静かなことに気がついた。先ほどまではある程度の気配も今はいない。まるで逃げるように静まった森が気になり回りに意識を向けた。
「お前ら少し静かに、少し変だ。静か過ぎる」
「…本当ださっきまで虫の音とか聞こえたのに」
そういえば大森林の異常が度々ギルドへ報告されていたな、通常ではいないはずの個体が複数件確認されたんだったか?
もしかしたらその類か?でもこんなに森が静まり返る事態なんて一体何なんだ…
『マスター!』
「グギャアアアア!」
な!?グリフォンだと!?なんでこんな浅瀬にランクAの魔物がいるんだっ!リアは…反応できてない!っくそ!
俺は即時【ヴェンデッタ】をアーシャから取り出し。銃を媒介に弾丸に火属性付加魔法【バーストフレア】を付加し迎撃した。
手加減なんて微塵もない一撃だったがグリフォンは自分の
互いの魔法がぶつかり合い大爆発、俺は咄嗟に横にいたリアごと【プロテクション】で防御。だがグリフォンはその爆発を強化と耐久性で無視しこちらに突っ込んできた。
こちらにはリアが、足手まといがいるってのに遠慮の欠片もない、距離を開ける時間なんてないためその場でなんとかするしかない。グリフォンはそのままこちらに風と雷を纏った前足で攻撃してきた。
ヴェンデッタの銃剣で受け止めたが力は強く弾き飛ばせそうにない。なんとか距離を開けるため受け止めた状態で【衝破】を放つが纏っている風に流され効果がなかった。
―――こいつ…調子に乗りやがって、いいさならこっちも多少本気でいってやる!
強化の出力を一気に上昇させ力ずくで押し返していく、グリフォンの一撃は風や雷を纏っているため本来ならば鍔迫り合いでもダメージを与えられるんだろうがこっちは【アイギス】の障壁があるため効かない。グリフォンが驚いて距離を開けようと一瞬力が抜けた瞬間に更に強化率を上げ弾き飛ばした。
着地し態勢を整える暇なんてあたえない、その隙に【疾駆】で距離を詰めグリフォンの頭部を思い切り蹴り上げた。
「グルアアアァァァアァァ!!」
グリフォンは視界を塞いでいた木々を折りながら上空へ凄い勢いで飛んでいく、だが蹴りの感触的にギリギリで風で防御されたのがわかった。
「逃がさない!」
追撃のため【リベリオン】も左手に出し二挺で無属性誘導弾【レイストーム】を撃ち放った、12発の赤い閃光がホーミングしまだ飛んでいっているグリフォンに襲い掛かった。
この【レイストーム】はそこまで派手ではないが貫通性と誘導性に優れた魔法だ、風の障壁程度で防げるはずもなく全身を閃光が貫き絶命させた。
「はぁ…なんだってこんなやつがここにいるんだよ…」
『マスター上です!」
再度アーシャの鋭い声に俺はすぐに多少開けた上を見た。絶命したグリフォンが落ちてきた所をデカイ赤いなにかが捉え噛み砕いた。
そのまま上空に飛び立ち帯空していると咆哮を上げた。
「ガアアアアアアアアアアア!!!!!!」
その姿は真紅の鱗で覆われた赤い竜、10mはあるであろう体躯に迸る魔力。あれは間違いないSランクの魔物でこの世界の最強種である―――
「ドラゴン、なんでこんな所にいるんだよ」
「ああ…Sランク、超越種なんて。どうしようもないよ…」
リアも固まって唖然と空でグリフォンを咀嚼しながら帯空しているレッドドラゴンを見て絶望している。実際あんな化け物普通どうしようもない。Sランクと言ってもピンキリでその中でも最強種であるドラゴン種だ。
魔力を見てもわかる。ざっと2000万もの魔力値だ。常人の2000倍にあの巨体だ。しかもドラゴンの
さっきのグリフォンもヤツから逃げてきたのだろう。浅瀬に出現していた高ランク魔物もコイツの所為だったのかもしれない。
「リア逃げろ、ヴァレイグにこのことを伝えてくれ」
「シオンはどうするの!?」
混乱してるのか初めてリアに呼び捨てにされた、師匠に対して失礼なやつだ。タメ口だし少しは労れよな。
「そりゃアイツをなんとかするのさ、ここからじゃ街が近すぎる。足止めか撃破かはやってみなきゃわからないけど。少なくとも此方に目を向けさせなきゃ街を襲うだろう」
「そんな!?でも勝ってこないよ!超越種だよ!?逃げよ?誰も文句なんて言わないよ!」
「まぁなんとかなるさ、やってみせる。ヴァレイグにはセフィーが普通の人達だっているんだ。逃げるわけにはいかない」
そうだあそこには大切な友達がいる。美人なくせに年齢相応な感性をもった馬鹿な友人が。だから俺は―――
「――勝つ、リア今のお前なら街まで1時間程度だろう?さっさと行け」
「そんな…シオンさん…なんでですか…」
「何でか…」
確かにそうだ俺はここで逃げたところで誰にも責められしないだろう。自分ことだけ考えればそれが最適解なんだろうそれでも。
「自分の事だけで生きていく日々は悲しすぎるだけだ」
「・・・・!?・・・・わかったよ、死なないでシオンさん」
その言葉への返事はせずレッドドラゴンに視線を向けた。グリフォンを食べ終え此方に気がついたのだろう、獲物を見る目で此方を射抜いてくる。
上等だ、ぶっ殺す。所詮は空と飛ぶトカゲだ。第一俺の1/5程度の魔力で調子に乗るな。
普段着では心もとないためアーシャから戦闘用の服に変える。黒いコートに白いインナー、ジーンズにブーツに変えて二挺拳銃を握り締める。
魔力を励起する。全身に魔力を循環させ強化していく。今までの戦いの比じゃない。5000万もの魔力で強化。力が溢れかえる。思考が加速していく。
勝つために、守るために。
「いくぞオオオォォォ!!!!最強!!!」
俺は【天駆】で空を駆け抜けていった。
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