第17話【夏・教える】
体長10mは超えているであろう赤い竜は自身にできた傷を庇いつつ西へ向かっていた。
己の住処を追われ大きな傷を負ってしまった自身を情けなく思いそれでも己の縄張りを侵し戦ったあの白銀の竜に復讐するためには傷を治さねばならない。
山を降り広大な大森林で獲物を狩り喰らい大分傷も癒えてきたがそれでは足りぬ。
「ガアアアアア!」
傷が痛むたびにあの屈辱が蘇り怒りに震えすべてを破壊したくなる衝動に耐え獲物を探す。
だが数も多く纏まった獲物が必要だ。力を蓄え必ずやあの竜を下し住処に戻ることを思い新たに見つけた3匹の2足歩行の豚を喰らいにいった。
なにか非常に疲れる夢を見た気がする。
リアが師匠うんぬんでなんとかかんとかがどうしたとか。
真っ暗な部屋の中で目が覚めた。ぼんやりとした意識の中でいつも通り魔具で光をつける。
毎度思うが日差しが部屋に入らないから時間間隔がわからなくなる。目覚ましでもほしいところだ。
冷房が着いた部屋は大体23度、今日は布団を蹴っていたせいか少し寒く感じ冷房を停止した。
これも気温の細かい調整が効かず部屋の大きさで出力を調整しなければならず面倒な思いをしたものだ。
やっと意識がシッカリしてきた。昨日は確かリアの師匠になったんだっけ…ああ、夢じゃないわ。テンション上がったリアが飲みつぶれてここに泊めたわ確か。
あー?なんかリビングが喧しい。アーシャがリアでも起こしているのか?朝っぱらから元気だな。やめてくれよ。
仕方ないリビングいって止めるかうるさいし、髪留めはどこに…あれ?なんで横にアーシャ寝てるの?じゃあこの煩いのは一体なに?
「なんだってんだ?おいアーシャ起きろ。面倒ごとかもしれん。っ起きろ!」
『なんですか?朝ごはんですか?イタダキマス』
「寝ぼけるな、デコピンの刑に処すぞ」
『マスターの指の大きさでも私にとっては顔面強打と同じですっ!』
アーシャは勢い良く目を覚ました。こいつは本当に最初の時より人間くさくなってると思う。まぁドンドン単純になってきて心配でもあるけど。
だってこうやって起こすのもう数え切れないし、学べよ。
『おはよ~ございます』
「おはよさん、なんかリビング騒がしいんだよね。嫌な予感するからお前もこい」
『あれ~?セフィーさんですかねぇ?また朝から抜け出して遊びにでもきました?』
ぁ…そうだそうだよ!家教えてから偶にだけどセフィー家にくるんだ。最初はこの魔具に驚いてたけど適当にごまかした。
クラレンスが本当に何者?って目が少し痛かったけど秘密の一言だ。拡張空間使った家なんて滅多にないけど一応現存する。遺跡からでる希少なものらしいけど。
まさか今日きたか?リア適当に転がしたままで放置しちゃったし。リビングに急ごう。リアをセフィーが泥棒扱いでもして家壊されたら堪らない。
「おいアーシャ急ぐぞ」
急いでアーシャを握り締め『ぐるひいでふ、ますたぁー』なんて言ってるが無視、寝室をでてリビングに向かう。
やはり大きな声が聞こえる。
「そうなんですよ、シオンさんめっちゃ凄くて、赤い光がぐわーってミノタウロス消しとばしちゃったんです!」
「おおー、消し飛んだんですか!?シオンさんにはギルドの方を助けたって聞きましたけど詳しくは知らなかったんです。そんな凄かったなんて」
どうやら別におかしな感じにはなってないようだ。ひとまず安心した。
助けた状況の説明をしているようだ。どんな状況でそんな話になったか知らないが酷く擬音ばかり説明でわからないだろ?セフィーわかってるのかよ。
リビングのドアの前で固まっても仕方がないと思い、そっとドアを開けたら仲良く話している。さっきの声は説明で興奮して大声でも出したのかもしれない。
「2人共仲良さそうなことで、おはよう」
『マスターいい加減つぶれちゃいます、おはよーございます。助けてください』
ああ、アーシャ握り締めていたままだった。力を抜きアーシャを解放する『酷い目にあいましたよオメメバッチリになりましたけどね』なんて言っている。
「「シオンさん、アーシャちゃんおはよう」」
「で?どんな状況で2人一緒なわけ?」
セフィーは口ごもりながら説明してくれる。
まぁ大体は予想通りセフィー乱入→知らない人がいる→とりあえず起こす→リア起きて驚きここはどこか聞く→自己紹介→経緯の説明だとか。
「自己紹介は終わってると、リアわかってると思うが俺の家だ。お前飲みつぶれたから此処に連れてきた。飲み代は後で請求するから覚えとけ銀貨6枚だから」
「昨日の収入より多いよ!?持ってないよ…」
そんなもの自業自得だ、酔いつぶれた自分を恨め。俺はここの宿泊代も含めて金貨1枚の所銀貨6枚にまけてやってるんだ。感謝してほしいぐらいだ。
「そうだ!お世話しますって言ったことだしご飯作るよ!…なんで銀貨3枚と銅貨5枚にマケてほしいなって」
『清々しいほどリアさん図太いです』
「寄生虫野朗、破門にするぞ。借金な1月以内に返せ」
セフィーが不憫に思ったのかこちらを説得してきた。
「シオンさんなにがあったかはわかりませんがなんとかなりませんか?」
「ならん、酒を馬鹿飲みして潰れたなんて自業自得過ぎる。駄目絶対」
この一言が聞いたのかセフィーは納得したようだ。理不尽な出来事じゃなく自業自得なわけだから納得もするはずだ。ここで甘えさせたら更につけあがる。
少しリアは意気消沈状態だったが気を取り直したのかご飯の用意をしようとしたが止めた。
食材はアーシャの中だしキッチンの魔具の説明も面倒だ。俺が適当に用意し4人で食べた。セフィーも朝食とってなかったらしい。
出る時一筆したためてあるらしいがクラレンス絶対怒ってる。その時になっても俺は見捨てようと思う。
「セフィーはこれから屋敷に戻るのか?それなら送るぞ?」
「んーどうしましょうか、返す様で申し訳ないんですがシオンさん達は如何されるんですか?」
これからか…折角リアもいるしなぁ。さっさと【アクアドール】を教えたほうがいいかな。そのあとは自主練でもさせとけばいいし。
「昨日リアの師匠になったんだよね、教えられるとも思えないけどリアも熱心でさぁ。とりあえず教える魔法は決めてもらったから今日はその練習かな」
「シオンさんが師匠にですか?それなら間違いなく上手くなりますね!なんの魔法なんですか?」
『【アクアドール】っていう水ゴーレム系ですよー、リアさん水属性が得意で前衛に困ってましたから』
「まぁそんな感じかな」
ある程度行動を指示してやれば自己判断で勝手に戦ってくれる。術式記述が多いタイプなので今日中には教えられないと思うがそこは努力してもらう。
ここで投げ出されたらあとは知らん。
話を聞いていたリアもこの言葉に反応し話しに加わってくる。
「昨日のやつ教えてくれるの!?どんな術式なの?」
「落ち着け、今日は座学だ。丁度ここにいるし教えてやるから少し待て」
「シオンさん私も参加していいですか?」
どうやらセフィーも興味を持ったらしい、セフィーは高魔力を持っているしゴーレムは有りかもしれない。水属性のゴーレムのいい所は土属性と違って地面がなくても生成できる面もある。
どうせクラレンスには怒られるんだ。その間が伸びても対して変わらないだろう。
俺はその申し出に快く頷くのだった。
紙に術式を転写し2人に持っていく。実際展開するときは生成するサイズにもよるが2m前後だがそんな紙なんてないため術式を縮尺し渡す。
複数枚の紙を練成しなおし70cmほどの紙に転写したため1/4程度のサイズにした。これ以下だと流石に術式記述が小さすぎて読めなくなってしまう。
術式、いわゆる魔方陣は圧縮言語を使用している。文字や図形を使用してこれはこうなるって命令を魔力に指示するためのものだ。
専門的な知識が必要なためシッカリ学ぶ必要があるため民間に行き渡らないのが現状である。なので貴族が独占しているというより。貴族しか学ぶ余裕がないのだ。
リアはそのことに気づいているのかいないのか当たり前のように俺に魔法を師事しようとしている。こいつはそれは自分が貴族だって宣言にまったく気付いていない。
まぁ特殊な事情(俺のことだが)でもないかぎり魔法はそういったものだ。
「結構高等な術式だ、どうだ2人とも」
「うん、行動式がかなり多いから難しいけど多分わかる。がんばる」
「ですね、でもこれは前もって生成しないといけないです。ここまで複雑だと術式展開に時間必要ですし」
その通りだったりする。俺もアーシャも結構普通に展開しているけどこういった独立性のある術式は難しいためそんな使い手がいない。
ぶっちゃけ強化して殴りかかるか、普通の攻撃術式のほうが断然楽だ。アイシクルランサーなんて、水生成→形成→強化→発射程度のプロセスだし。
ちなみにアーシャのゴーレム君はあらかじめ練成で作成した特別製である。最初から素材を使って作成してあるため使い捨てじゃないタイプ。めちゃ強い。
2人に教えてるのは使い捨てタイプだ。ディメンションを込められた魔具でも持ってれば作成したタイプのほうが便利である。出すだけだし。
リアはそんな高価な魔具は持っていない。だがセフィーは持っている。二の腕に付ける腕輪タイプだ。あれAランク魔石使用しているため相当容量がありそうだ。
セフィーにはいつか護衛ゴーレムでもあげるかとも思わないでもないがその場合にクラレンスが凹むかもしれない。あいつのいつも涼しげな表情を歪ませたい。
2人共難しい顔して書き取りしたりひたすら見ていたり。理解の難しい部分の術式を俺やアーシャに聞きながら覚えていった。ぶっちゃけ暗記だからねこれ。
途中クラレンスが此処にきたり一悶着あったがそれは割愛。結局夕方までウチにいて勉強していった。
ちなみにリアの銀貨6枚は後日あらためて狩に行き返済された。
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