第16話【夏・弟子?】
「シオンさん、僕とパーティー組んでくれない!?」
ギルドで昼食を取っていると丁度ギルドに来ていたリアが急にこちらにそんなことを言い出した。
「嫌」
「そんな!?」
そもそもいきなり何をこいつは言ってるだろう?狩場が違いすぎて足手まといにしかならない自覚はないのだろうか?
「なんで?」
そう俺が問うとリアは急に目を泳がせた。なにかある態度があからさますぎて逆に疑うレベルだ。
「えとね、1人じゃ限界かなぁとか思い始めてて頼りになる人を探してて」
「で?」
そんなの知ってるんだよ。10日前に助けた時そんなこと言ってたもんな。
「かといってやっぱりパーティーに誘えなくて、シオンさんだったら頼りになるなぁって」
「ざけんな、おととい来やがれ」
『話ぐらいは聞きましょうよマスター』
アーシャが何か言ってるが無視、俺は今ご飯中だ。
「もう蓄えがないんだよー!助けて貰った時になくなった装備を買いなおしたらギリギリで!もう格安の宿すら取れなくて!死んじゃう!助けて!」
「はん、故郷に帰れ。そんなことでパーティー探しとかギルドメンバーとして終わってるっての」
第一駆け出しなんだから馬小屋でも間借りしやがれ、雑用からこつこつ溜めれば再起もできるだろう。普通はそんなものらしいし気合があれば何とかなるさ。俺はゴメンだけどな。
「馬小屋生活もやったんだ…でも他のやつに襲われて、男が男にって可笑しいよ…それだけはやだよ…」
「あー」『それは…まぁ』
こいつ大分キテるなぁ、リアははっきり言って男に見えない。てか見た目も身体付きも女にみえる、いや正直言おう俺はこいつは女だと思っている。
男装して誤魔化してるようだけど無理がある。俺が言うのもなんだけどさ。まぁ駆け出しのリアはさぞいい獲物に見えることだろう。
さてどうしたものか…俺もまぁ気持ちは多少分かる。今でこそ絡んでくる阿呆はいないが最初のころは馬鹿が絡んできたものだ。表面上俺は丸腰だったし。
「家にでも帰ったら?それぐらいの金だったらくれてやってもいい」
「いや!」
興奮したようにリアは否定してくる。
「それじゃここまで来た意味ないもの、それに今更戻っても居場所もないよ。だから強くなって自由になりたいの!」
「おーいここギルド内だから、大声は勘弁。ほら注目受けてんぞ?外いきましょ外」
こちとらさっきまで魔物狩りしてて腹減ってるってのにまさか食えないなんて、でも注目された中で食うのも居心地悪い…ついてねぇ。
とりあえず興奮しているリアを外に出す。そのまま公園まで連れて行きベンチに座らした。
「パーティーねぇ、お前分かってる?実力差ありすぎんの。分かってなかったらシバくよ?」
リアはそのことは自覚しているようでさっきとは打って変わって消沈している。
「うん…だからお願い!僕の師匠になってパーティーを組んでください!」
「は?」『面白い展開になってきましたよマスター!』
「師匠になってください!シオンさんの強さに憧れました、身の回りのお世話とかもやります!お願いします!」
「はぁあああんんんん?」『キター!』
寄生発言からの師匠になって宣言に変わりやがった、身の回りの世話とか言ってるがコイツ嘘くせぇ。そんな余裕どこにあるんだ?つかアーシャうぜぇ!
「お願い!」
「お前さぁ、俺が教えるの下手だってわかってないわけ?体術だってろくに教えられなかったんだぞ?」
『私がカリキュラム組みますよ!やってあげましょうよ。ほら人に教える経験もあるとまた変わりますって』
やかましい、そんな暇じゃない…こともないけどー。ぶっちゃけこの頃魔物狩りのルーティーンで飽きてきてたとこだけどー。
「お前のカリキュラムなんかしたら死ぬだろ、却下」
『ならマスターが作っちゃえばいいんです、これも経験ですよ』
「シオンさん…」
「―――お前ら強引だっての、はぁー。1ヶ月だ、パーティは組んでやる3日に1度は予定もあるからだめだが。多少は手助けしてやる。暇だしね」
かなり唐突に決まってしまった。まぁ縁もあったということで早速魔物を狩りにいく。現金収入がないと師匠や弟子うんぬんの前にコイツが餓死して死ぬ。
リアを連れて大森林浅瀬に向かう、この頃はこの浅瀬にもCランクの魔物とかが出てくるとかの報告が上がっているらしい。
俺はミノタウロスにしか合ってないのであまり詳しくはないけど、ランドルフも合ったとか言ってたっけ。
リアが言うにはそれもあってあまり狩りにいけなかったとか。
それでもここは大抵がFやEランクたまにDランクがでる程度だ、そんなものなんとかなる。
「ほら、ゴブリンだぞ。3匹だ、やっちまえ」
ちなみに報酬は各自倒した魔物を総取りと決めている。ほぼリアに倒させる予定なので問題なし、…なんでこんなボランティアやってんだろう。
「はい!【アイシクルランサー】!」
30cmほどの氷の矢の魔法だ、森の中でのエンカウントで距離も15mほどしか離れてないゴブリンの1番前のやつに当たった。
そのままリアは再度アイシクルランサーを展開し2体目にはなつ、意外とすばしっこいゴブリンだが飛来速度より全然遅い。頭にぶつかり即死した。
その隙に最後のゴブリンが襲ってくるが手にしていた身長ほどの杖で殴り飛ばし、その後倒れたゴブリンに先端の尖った部分を魔力を通し強化し穿った。
「おー、なんだ10日前なんかより随分錬度上がったんじゃないか?」
「本当?教えてもらったことはやってるからね!アドバイスとかないかなぁ?」
「特にないなぁ、うまくやったと思うよ?体術もうまかったし」
『マスター適当すぎです。発動速度が短いですね1秒で魔法使えるなんて凄いじゃないですかリアさん!』
「【アイシクルランサー】は得意なんだ~。それに僕水属性しか使えないから。特化型なんだよね。特に氷系が得意かも」
なるほどね、特化型か。でも水属性はかなり便利だ。水と氷が自由に生成、操作できるこの属性は利便性が高い。
基本5属性の中でも質量があるタイプだから一撃の重さってやつもある。質量のあるタイプの属性は【断空】みたいに形成した物体に魔力を流して強化なんて真似もできる。
それの特化型なら効率もいいし土属性には劣るが便利だろう。ちなみに個人的意見です。あと俺的には不遇属性は火。
「やっぱ教えることなくね?【フリージングジャベリン】も使えるんだろ?むしろ覚えたいことの希望でもないわけ?」
「なにかこれだーってやつがほしくて」
『これだー!ってやつですかぁ』
思いつかん、水ねぇ。やっぱ接近戦でも本格的に教える?魔力操作をもっとなんとかすれば強化も強くなるし。
リアに魔石を回収させながら引き受けた手前有効な手立てを考える必要があったのでインストール内の知識を改めて探ってみた。
「お、これなんてどうだ?【アクアドール】!」
そこには氷でできたゴーレムだ、水で作ったりするのが普通だけどリアに合わせて氷バージョンである。土属性では良く作っていたがインストール内の魔法にはこんなものもあった。体長180cmほどの騎士風氷人形だ。
1体3万ほど魔力を使ったゴーレムで損傷を気にしなくていい分Dランクほどの戦力にはなる。
ゴーレムは多数用意するのが制御的に難しいが1体2体だったらなんとかなるだろう。魔石を媒介なんかに使えば結構長く持つし同じ魔力量消費でも力が変わってくる。
なかなか使えるんじゃなかろうか?
『なるほど、そんなのもありましたねー』
「凄い、え?これどうやってやったの?シオンさん教えてー!!」
どうやら教えるものも決まったっぽい。体術に魔力操作教えながら並行して教えるとしよう。とりあえず魔物狩りで金稼ぎだけどな。
既に夕暮れ、ギルドに戻り換金したリアが戻ってきた、結局今日の成果はランクGのゴブリン×3で銀貨1枚と銅貨5枚。Fランクのウォーウルフ×2で銀貨2枚。全部で銀貨3枚と銅貨5枚だ。
ちなみに治安はそう良くない場所にあるカプセルホテルみたいな寝るだけの場所なら銅貨5枚で泊まれるらしい。クソ安い、リンゴ5個分って大丈夫かそこ?
今回は俺は手を出していないためリアにすべて渡した。ぶっちゃけもうそんなの小金だ。ランク差での収入のあまりの厳しさに悲しくなるね。
ランクDほどの魔物から収入金額がガクリと変わる。そこまでいければ割りもいいんだ。頑張ってほしい。
どうやらお礼に今回の収入で飯を奢ってくれるらしい。お前10日前もそれやって俺達に銀貨5枚奢ってなかったか?
ああ、あれは相当厳しかったのね。ゴメンね。
安上がりで済ませる為にギルド内の飲食屋ではなく違う場所に行くことになった。俺はギルド内でも良かったがあそこ実は美味いが地味にルーキーに優しくない金額だ。
魔物系の美味い飯を出すわけで、直営なのに飯代で銀貨3枚飛ぶことは珍しくない。酒まで頼むと下手すりゃ銀貨7~8枚飛ぶ。
なので本日は前に泊まった事のある宿屋件飲食店の【アルバート亭】での夕食だ。ここは元ギルドのやつが経営しているため顔がきき安かったりする。
俺も昼食取る時何日かに1度は利用している。露天率も高いけどね。
2人して夕食食べてると今日のことで嬉しかったのかリアがテンション高く酒をパカパカ開けていく。おいおいまた金なくなるぞ?
俺は金ださねぇからな?そんな飲んで潰れたらどうするんだってーの。
おい!いい加減飲むのヤメロ。「あの水魔法絶対おぼえるぞー!」って耳元で叫ぶなうるさい。
絡むな抱きつくな。おい銀貨3枚超えたぞ?今日どうすんだよ!お前が使ってる宿とか俺知らないんだけど…ここに放り込む金も今掏ったよね?
え?
「こいつ…最悪だ寝やがった」
『こんなオチだと思ってました、どうします?』
「ここに放置する」
『店主さんに怒られますよ?』
「…俺が払うわけ?今度飯代と宿泊費倍にして請求してやるぞクソ野朗」
『遅すぎましたね』
「はぁ~」
結局俺が飯代を支払いリアをここに叩き込みたいと思う、そのまま宿泊のための手続きをお願いした。
なに?今日はもう満員?2時間前は開いてたって?おい…どうしろってんだ。
「くそ、なんでこんなことに」
道端に放置したら誰かにお持ち帰りされかねない。仕方なく家に連れて帰った。見た目オンボロの一軒家の中に入りプレハブをアーシャから出し中に入る。
リアの靴だけアーシャに脱がしてもらい俺も部屋着へ、そのままリビングのソファーに寝かせた。酒の匂いを移されるのも癪なので俺達に【クリーン】で綺麗にしリアは放置だ。
背負っているとやっぱりこいつが女だとわかる。サラシかでキツク巻いてるのか見た目には分からんがオンブしてたわけなのですぐわかった。
俺男でこの状況的にお持ち帰りじゃね?みんな俺のこと女だと認識してるけど俺男だからね…
なんて思いながらなにもするわけもなく寝室で俺は寝た。
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