「こたつはヨーグルトを作る殺人機械だと思っていた」

兄:

「うちの母親は昔、冬になると、こたつでヨーグルトを作っていた」


私:

「……え、そうなんですか? 私が産まれてからは作ってないですよね?」


兄:

「作ってないな。たぶん、飽きたのだろう。というか、ヨーグルトを作っていたという事実を覚えていない可能性もある」


私:

「お母さまは趣味の事はアバウトというかミーハー思考というか、年替わりしますよね……で、こたつに、ヨーグルトを入れるんですか?」


兄:

「うむ。40度程の熱で、乳酸菌かなんかを、じっくり発酵させたら出来るらしい。で、冷蔵庫に入れて保管する」


私:

「それは知りませんでした。お味の方は?」


兄:

「実に普通のヨーグルトだった。まあそういうわけで、冬場はこたつの上に、置手紙が貼られていた」


私:

「置手紙?」


兄:

「ヨーグルトが入っています。気をつけてください。母より」


私:

「蹴り飛ばしたら大参事ですからね」


兄:

「うむ。基本的にフタを締め切った、結構な重量のある筒形のタッパーを、さらにビニール袋で覆っていたので、転がしてしまう様な事にはならなかったが……」


私:

「ならなかったが?」


兄:

「たまに置手紙が張られておらず、油断して足を突っ込むと、突き指した」


私:

「新手のトラップですか」


兄:

「あぁ。予想していなかった痛覚ほど、恐ろしいものはない……なので、昔は親父と警告を飛ばしていたものだ。ヨーグルトがあるぞ。気を付けろ」


私:

「割と平和ですね」


兄:

「なにを言うか。おかげで俺は、今ではすっかりゼリー派だ。どうしてくれる?」


私:

「お兄様の趣味嗜好とか、どうでもいいですわ」




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