「アイスと言えば、雪見大福~♪」

私:

「とつぜん歌わないでください。びっくりするじゃないですか」


兄:

「最近暑くなってきたからな。風呂あがりに食す雪見大福が美味い。そう、雪見大福こそ、俺の子供時代のジャスティスなのだ」


私:

「とつぜん自分語りをはじめないください。聞いてませんから」


兄:

「子供の頃は家が貧乏だったからさー、なにかイベントが起きて現金が入ったら、夏場は百円を握りしめ、まっ先に雪見大福を買ったものよ」


私:

「そうですか」


兄:

「そうですとも。百円で二個入りのやつを買って、いっこ食べるだろ? そしたら残り一つをすぐ食べず、大事に冷蔵庫に入れてとっとくわけ」


私:

「なにちょっと良い話しようとしてるんですか?」


兄:

「まぁ聞けよ。でもやっぱいっこ残ってると食べたくなるから、俺は考えたわけ。流しにいって食べて空になった方に水を張って、冷凍庫に入れる。通称:氷だいふくだ」


私:

「……ただの氷ですよね?」


兄:

「うむ。まずは雪見だいふくを食べ、残りいっこを食べずに我慢して、氷だいふくを作り、しばらくはそれで自分をだまし続け、くっ、もう限界だ! 雪見だいふくを食わねば闇の炎に抱かれて死ぬ! という気分になったら、残りいっこを食う」


私:

「ただの貧乏な話ですね」


兄:

「そうだとも。しかし大人になって、家を出て働きはじめ、仕送りのおかげで実家もようやく普通の暮らしが営まれるようになり、やがて自分のために雪見大福9個入りのファミリーサイズを大人買いできるようになったという素晴らしい話だ」


私:

「先月ガチャにいくら注ぎこみましたっけ?」


兄:

「おぉっと、いけない。雪見大福を食べねば死んでしまう。雪見大福~♪」



 ガラガラ(冷凍庫を開ける音)


兄:

「……あ、あれ? 雪見大福は? 俺の雪見大福センパイは?」


私:

「私がさっき食べました。いつまで経っても最後のいっこが片付かないので、てっきり食べていいのかと」


兄:

「…………」


 ピシャン(冷凍庫を閉める音)


 ガサゴソ(ゴミ箱を漁る音)


 ごまだれー(9個入りプラスチックの残骸を発見)


兄:

「……氷だいふく……♪」


私:

「わかりました。私が悪かったですから。ちょっとコンビニで買ってきますから。死んだ魚の目をしてこっちを見ないでください!」

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