「男はいくつになっても、未知なる力に憧れるものさ」

私:

「お兄様、今夜の〝野菜炒めモドキ〟に物申したいのですが」


兄:

「はい」


私:

「バラとセージの香水でも振りかけたのですか?」


兄:

「んーん?」


私:

「ではいったい、なにをどう調理したら、豚肉、キャベツ、ニンジン、タマネギのすべてから、この様に食欲を失わせるような芳醇な香りが発せられるのです?」


兄:

「束の間の平和。日々繰り返される、安穏たる人生の調和にちょっとばかし辟易してしまってな」


私:

「誤魔化すのはやめてください」


兄:

「なぁに、いろいろ調味料を節操なく振りかけて、弱火で焼いたあとに煮込んでみたり、やっぱり強火で焼き直してみたりと、新たな境地を開拓できやしないかなぁと確かめてみた結果が……うーむ、香りは確かにヤバイな」


私:

「お兄様、食材で遊ばないでくださいとアレほど! 私の晩御飯がひどい有様になるからやめてくださいと何度言えばわかるのですかっ!?」


兄:

「いやぁ、前は無事に覚醒できたのになぁ。貴様も美味そうに食ってたし……」


私:

「だ・か・ら! なんでたまに無駄に凝った創作料理に走ろうとするのかを聞いているんですよ! メシマズ嫁の真似事は美少女が行うから意味があるのであり、お兄様がやったところで世間の非難を味わうだけだというのが、何故その歳になってもお分りにならないのですか!?」


兄:

「ワシまだ若いもん。挑戦したって、いいじゃない」


私:

「やめてください。やめて。やめろ」



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