エルフの里にて

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 暑苦しい、動けない。


「んーー!!」


 目を覚ましたら目の前に柔らかいものがあった。息苦しい。

 思わず跳ね起きると、魔物を大量に引き連れてきたお姉さんだった。どうやら屋内らしい。お姉さんを見てみると尖った耳にブロンド色の髪の毛、大きな胸。うん、美人さんだね。尖った耳ってことはエルフかな?起きるまで暫く眺めていると、


「ふわぁ〜むにゃむにゃ....はっ!?」


 起きたようだ。こちらの姿を見たとたん撫でられる。


「わぁ~もふもふ~」


 耳と尻尾を触られる。くすぐったい。


「えっと、あなたは誰?」


 お姉さんにそう聞いた、そしたら、


「私はリューラでしゅっ!」


「しゅっ?」


「ですって言おうをしたらしゅになっちゃったの!!」


「そっかー」


「うん。君の名前は?どうしてあんなとこにいたの?あの魔法はなんだったの?その髪は自毛?それから「一気に言われるとわかんないよ!」わかった」


 驚いた。可愛いとこあると思ったらマシンガントークしてくるんだもの。


「少しずつ質問して?」


「わかった。君の名前となぜそこにいたのか教えてくれないかな?」


「んーとね私の名前はカティアって言うの!気がついたら草原みたいな所にいたの!」


 これは嘘ではない。少年がそこに飛ばしたんだろう。


「あらあら、あの本の魔法ってなに?」


「わかんない。気がついたら使ってた」


 これも事実だ。本がひとりでに動いたってなんか怖い。ところであの本どこいったんだろう。


「そっか。じゃあ最後の質問、君のそれは元々の色なのかな?」


「うん」


 少年ってか神が外見決めたからな。


「うーん、どこもおかしいとこはない...よね...?」


 そう、呟くように言った後、


「カティア、聞きたいことはない?」


 聞きたいことって言っても何もかもわからない。とりあえず人間の街へ行ってみたいな。美味しい食べ物とか、お金とか、武器とか国とか、言いだしたらキリがない。


「多分大丈夫!」


「じゃあ、朝ごはん食べに行くかな」


 そう言った途端、リューラのお腹が鳴った。顔を見てみると赤らめている。かわいい。


「えへへ~」


 彼女は照れながら私の手を引き、食堂と思われる場所へ向かう。


 食堂はそこそこ大きな建物で、朝だというのにガヤガヤしていた。端っこの方の空いている席へ座って、


「食べたいものはある?」


 そう聞かれてもここの世界の食べ物は何がおいしいのか分からない。とりあえず美味しいものが食べたい。


「おいしいもの!」


「わかった。すいませーん!今日のおすすめ2つとシュコの実のジュースを2つお願い!」


「あいよ!」


 厨房の中から元気な声が聞こえてきた。美味しそうな匂いが漂ってくる。だがお腹がすいた感覚は今のところない。


「おまちっ!今日のおすすめだよっ!」


 注文してまもなく朝ごはんが運ばれてきた。この世界での初の食事だ。肉と野菜スープのようなものとご飯のようなものがある。どれも量が多かった。シュコの実のジュースとやらは、薄桃色だった。リューラはこちらを見ながら既に食べ初めていた。


「たふぇていいんふぁふぉ?」


「うん!」


 口に入れたまま喋ったせいでよくわからなかったが多分食べていいんだよ的な事を言ったのだろう。恐る恐る食べてみると思ったより美味しかった。


「おいしい...」


「それなら良かった」


 いつの間に食べ終わったのかリューラはこちらを見ながらニコニコしていた。あの、そんなに見られると恥ずかしいって言うか食べにくいと言うか...ま、いっか。

 うん、これならいくらでもいけそう。シュコの実のジュースを飲んでみる。これは甘酸っぱく、なんとも言えない美味しさだった。


「ごちそうさまでした~」


 お腹空いてなかったけどご飯食べれたし満足♪


「いえいえ~ご飯も食べ終わったし次は長のとこ行こうかな。あっ、すいませーん!お会計お願いしまーす!」


「はーい!えーっと、おすすめが2つとシュコの実ジュースを2つ、以上で30キアルになります」


「30キアルね、はいはい~」


 リューラが袋から銅貨みたいな物を3枚取り出して渡した。


「丁度ですね。ありがとうございましたー」


「じゃあ長の所行こうか~」


 そう言いながら私の手を引き歩き始めた。建物の外へでてからしばらく歩いているととても大きな木が見えてきた。よく見ると、根の部分に扉のようなものがついている。リューラを見ると鼻歌を歌いながら歩いていた。聞いていると時々音程が外れているようだった。


「ついたー!長いますかー」


 そんなことを言いながら扉をドンドン叩いている。そしたら扉が勢い良く開いて見事に顔面に当たった。


「あうっ!?」


「まったくドンドンうるさいぞ」


 おじいさんが出てきたぞ。この人が長なのかな?若く見えるけど。


「長~酷いですぅ~おでこ強打しましたよ!?」


「しるか」


 なんとも言えないこの空気。私は居たら邪魔じゃないのか....


「いたいですぅ~」


「んな大げさな...」


 いつまで言い合ってるんだこの二人は...

 私がなにもせずにぼーっとしていたら長がこちらに気がついたようだ。リューラは未だにおでこを押さえてのたうち回っている。


「おお昨日の小童か」


 小童って、まぁ確かに外見は子供だけども。


「むぅ」


「まぁまぁそう不貞腐れるなってここじゃなんだからアホは放っておいて中へ入ろうか」


 さらっとリューラのことアホって言いやがったぞ。まぁ中に入るか。


「はーい」


 長の後について中に入る。中は至って普通だった。促され椅子に座る。長が前に座り向かい合うように座った。


「早速だがいくつか質問をさせて頂く、お前さんどこから来たのかい?」


「しらない。そこにいただけ」


 嘘は言っていない。


「ここら辺は普段魔物が多く滅多に来ないんだがなぁ。捨てられたのか?」


「ん。違う」


 捨てられたのではなくてそこにほっぽりだされただけだと思う。


「うーん。しかしまぁお前さん珍しい格好だな。人間でその様な服装の人はいないことはないだろうが服の生地が良すぎる」


「これは私にもわからないの」


 うん、これは私には全くわからない。昨日来ていた服とは若干デザインが違う気がする。


「うーむ。リューラが言ってたことなのだが多くの魔物を引き連れてきたらしいのだがお前さんが倒したらしいな?見たこともない魔法を使って」


「うーん...?魔法なのかなあれは?怖いって思ったら咄嗟に出てきたから覚えてないの」


 あの本のことも謎だし、なんであんなに多く魔物がいたのかも謎だ。


「そうかそうかそれは怖かっただろう。孫娘が迷惑をかけたな」


 ん!?孫娘!?リューラって長の孫娘だったのか...


「ん、大丈夫。今生きてる訳だし」


「ところでお前さん名はなんという?」


「カティアなの」


「カティアと言うのか。いい名前だな。しかしこれは真名であろう?」


 真名?本当の名前ってこと?この体だと多分そうなのかな。


「うん」


「真名を知られると一部の輩に悪用されることがある。そこでだ、偽名を名乗ることがよかろう。なにか名乗りたい名はないか?」


「偽名...特にないの」


「うーむ、なにがいかのぉ。カティアだから普通に略してカティでいいかねぇ」


 何も捻ってないな。まぁ実際そんな名前多くあったらわけわかんなくなるからいいや。


「はーい」


「しばらくここに居るといい。リューラにいろいろ教わるといいだろう」


「「はーい」」


 うおっ。いつの間にリューラが復活してた。さて、これからどうするとするか...


 --


 エルフの里にはや数日、私はここであんなことやこんなことを...あっ、いやなにもやらしいことはしてないよ?数日間のことを話そうか。


 あの日、長と分かれた後、開けた場所で魔法の練習をすることになった。


 魔法について聞くと、


「えーっとね魔法はね。いろんな属性があって大抵の人は1つか2つの属性の魔法を扱えるんだ」


「ふむふむ。リューラはどの属性を持ってるの?」


 そう聞くと、リューラは目を輝かせ腰に手を当てドヤ顔をした。....なにこれ殴りたい。


「聞いて驚け!なんと私は3属性を扱えるのだ!」


 そう言い、ドヤ顔のままふんっ!と意気込んでみせた。


「それって凄いの?」


「2属性でもあまり見かけないけど3属性はもっと見かけないんだー」


「つまり貴重ってことね」


「そうそう!」


 話している間ずっとドヤ顔のリューラ。

 魔法の属性について詳しく聞くと、魔法には多くの属性がありどの生き物でも何かしらの属性を持っているそうだ。一般的な属性は、火・水・風・土・光・闇と言ったような属性があるらしい。

 リューラはそのうち水と風、さらに光属性を持っている、らしい。


 一通り説明を聞いた後に実践することになった。どっからか拾ってきた木の枝を少し離れた地面に突き刺したら、


「その木の枝に向かってなにかしてみて」


 そう言われましても...


「魔法ってどう使うの?」


「なにをどうしたいか思ってれば使えるよ」


 えぇ...とりあえず木の枝をどうにかすればいいのね。


「なんとかなれー」


「なんとかって」


 リューラが笑いながら木の枝を見たら木の枝が跡形なく消えていた。


「えっ、ちょ、何が起きたの!?」


「なんとかなれーって言ったらこうなった」


 実際なんとかなれって言った途端木の枝が跡形なく消えていたんだよねぇ。リューラはなにやら木の枝が刺さっていた場所でなにやら言っている。


「いや、魔力の痕跡も感じない。私は側にいたけど魔力の流れも感じなかったし、それらしき言葉を言ったわけでもないし....ブツブツ」


 自分の世界に入ってますね、はい。私は蚊帳の外っすか。


「リューラ...戻ってこーい...」


「はっ!?ごめんごめん」


「一応木の枝はなんとかしたよ?」


「う、うん。じゃあ今日は暗くなってきたから部屋に帰ろう」


「はーい」


 なんか悪いことしたかな?なんとかなれって思って木の枝が消えたとか驚き。それにしても動いてもお腹がすく気配がないなぁ。

 今朝行った食堂にて夕飯を食べたらリューラの部屋で寝ることになった。


 --


 -その晩


 リューラは長の所へ行っていた。


「例の件なんですが」


「どうかしたのか?」


「いえ、特に詳しく魔法の使い方を教えずに魔法を使わせようとして驚きの結果が」


「なんだ?無詠唱で魔法を発動したとかか?」


「それが...的を木の枝にしたのですが彼女がなんとかなれ、と言ったら木の枝が跡形なく消えていたんです」


「跡形なく消えていたとな?」


「はい。魔力の痕跡すらありませんでした。側にいた私が魔力の流れすら感じ取れなかったので」


「彼女からはかすかに魔力を感じるぐらいなのだがな」


「そうですね」


「悪い方には転がる事はないと思うがもう少し様子を見てみようか」


「分かりました。それでは叔父さまおやすみなさい」


「おやすみリューラ」


 --


 その次の日の朝、またエルフの里の周りに魔物が増えてきたらしく里は慌ただしかった。

 私達は簡単に朝食を食べると魔物退治に行くことになった。

「魔物を倒しに行こう!」


「えぇ...」


 この世界に来て数えるほどしか過ごしてないのに魔物退治に駆り出されるとは...人手不足かな。


「大丈夫!先日よりは少ないはずだから!あっ丸腰で行けってわけじゃないよちゃんと武器渡すから」


「テンション高いねぇ...」


 実際のところ行きたくないのが本音だ。なにが嬉しくて死ぬ可能性のある魔物退治に行かなきゃならないんだ。


「そんな事言わずにさ〜こっちこっち〜」


 私の手を取り走り出す。向かった先は何の装飾もない家だった。


「ここが武器屋ってか武器庫だよ〜」


 おお、ここがそうなのか


「武器...?」


「私の武器を持ってくるから待ってて!」


 そう言い店内?に走って行った。

 しばらくすると、両手に様々な武器と思わしき物を持ってガチャガチャしながら走って来た。


「よっこらせ」


 そう言いリューラは手にしていた武器を地面に下ろした。


「さて、どの武器がいい?」


 武器を見てみる。短剣や弓、両手剣や謎の形の武器などがある。私はその中で1番多かった短剣を手に取った。

  すると、たちまち短剣が黒く染まりサラサラと崩れ消えてしまった。


「えっ...!?」


 そりゃ驚くよ。私だって驚いたもの。武器が消えてなくなるってどんなトリックなのよ。

 そう、思っていると― 

 目の前に本が現れた。それは、ついこの間見たあの本だった。

 私達が何かを言う間もなく『それ』は宙に浮いていたがほんのり紅く光っていたが私が触れると『それ』は突然めくれていき、あるページでとまった。

 私は導かれるかのようにして手をかざすと―

 なにやら陣が浮かびそこから『なにか』がでてきた。それは武器のようだった。黒い、光さえ吸い込むような漆黒。私と似た黒。両手鎌の様だった。


「何が起きたの...」


「しらんがな」


 いつの間にか『あの本』は消えていた。何が起きたか私に聞かれてもわからんがな。にしてもこの武器しっくりくるなぁ。


「それって...?」


「武器だと思う」


「それは見れば分かるよ」


「ですよねー」


「ま、まぁ武器も手に入ったし魔物を倒しに行こう!」


「あっはい」


 リューラは何か言いたそうであったが、武装した里の人達が慌ただしく里の外へ行くのを見て、先に魔物を討伐しに行くことを優先することにしたようだ。


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