黒猫編後編 恩返し
「良かったな相棒」
そこは上も下もない、ただ漆黒だけが広がる世界。
いくつもの平行世界へと渡り歩くための、熟練したケットシーだけが存在することを許された空間。時空の架け橋。
それぞれが別の世界へと通ずる三つの扉。それらの前に立ち、海堂はうんうんと頷いた。
昔、彼がまだ人の姿に化けられない小さな猫だった頃、宮原シンとその妹ルリリは木から下りられなくなった彼を救った。
空腹で倒れていた彼を、三人の女の子達は救った。
「感謝してるんだぜ。凄く、凄くな。お前たちは命の恩人なんだ」
海堂はそっと扉を閉める。
「相棒、みんな、幸せになってくれよ。これが俺なりの精一杯の恩返しだ」
海堂は宮原兄妹に救われた後、無事親と再開した。
そして海堂はケットシーの世界で何十年もの間訓練を積み、この力を得た。
全ては恩返しのため。自分に力があるのから、それを誰かのために使いなさい。
親の教えだった。
人の世と妖の世では時間の流れが異なる。
人間の子どもに化け、宮原兄妹の側で暮らすのは力を得た海堂には容易なことだった。
「残る恩返しは一つだ」
海堂は振り返り、一つの扉を見つめる。
「ルリリちゃん」
自由気ままに動く猫のような彼女。海堂よりもある意味猫らしい彼女。
さて、彼女を幸せにするにはどうしたらいいだろう。
「さすがに兄妹でくっつけるわけにはいかないよな。俺自身が彼氏になること、なんて言ったら、相棒はどう思う?」
怒るだろうか。笑うだろうか。それともお前になら妹を任せられると歓迎してくれる?
海堂はいくつもの反応を想像しながら、そっと最後の扉に手をかけた。
友のために誓ったひとりよがりの約束を果たすため。
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