閑話休題

黒猫編前編 幸せの道標




 その猫は人語を操り、人の姿を得ることの出来る力を有していた。

 人間界とは異なる世界に住まう彼らを、人はケットシーと呼ぶ。

 彼はまだ幼い妖猫で、人の姿に化けることおろか、喋ることすら出来なかった。

 妖界に空いた切間に迷い込み、人間界にたどり着いたネコ。

 右も左もわからず、道に迷い、あげく空腹で倒れるネコ。路上に横たわる彼に、入れ替わり立ち代りエサをくれたのは、まだ小学生になるかならないか程度の女の子達だった。

 多大な感謝を抱くネコだが、不幸にもその想いを彼女たちに伝えるすべがない。

 女の子たちと別れ、再び一人になるネコ。

 彼は元の世界へと通ずる次元の隙間を探すべく、木に登った。しかし、今度はおりられなくなってしまう。そしてまた救われる。一人の男の子と、一人の女の子に。

 彼は思い出した。

 並外れた妖力を持つ一部のケットシーは、本来交わることのない異なる世界線、平行世界を自在に行き来することが出来るということを。

 無事妖界に戻ることができたら、修行を積んでその力を得よう。

 そして彼らに恩返しをするのだ。

 焦ることはない。ここと向こうとでは時間の流れが違うのだから。

 


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