第1回イベントゲームの終焉

 赤城恵一はイベントゲームクリアに喜び、重たい肩を落とし安堵した。それとは裏腹に彼は幾つかの不安に襲われる。

 三好勇吾は無事に残りの200経験値をメインヒロインアンサーで稼ぐことができるのか? 


 自分と矢倉は助かったが、イベントゲームをクリアしていない7人は無事に生き残ることができるのか?


 次のゲームで多くの男子高校生たちが犠牲になるのではないのか?


 今回のイベントゲームは、何とか攻略できたが、次のゲームも同じように攻略できるのだろうか?


 様々な不安が頭に浮かぶ。赤城恵一は自分の部屋のベッドの上で横になり、腕を組みながら唸った。

 それから数時間の時が過ぎ、いつもの時間に第1回イベントゲーム最終日のメインヒロインアンサーが始まる。いくらイベントゲームをクリアしていたとしても、ここで死亡フラグケージを溜めてしまっては元も子もないだろう。赤城恵一はイベントゲームクリアによって生じた高揚感を引き締め、7日目のメインヒロインアンサーに挑む。


『あっ、島田夏海が佇んでいる』


『A。やあ』


『B。島田さん』


『C。スラマッパギ』


『D。とりあえずチョップだ!』


 今回のシチュエーションはショッピングモールのようで、スマートフォンの画面に映る島田夏海の背景に、多くの買い物客たちが映っている。最初の問題はバリエーションが貧弱なのか、7日連続で同じ問題。赤城恵一は無心でBという選択肢をタッチする。それに対し、メインヒロインは笑顔を見せた。そのリアクションも 7日間同じ。


『赤城君。そういえば節子の病室に何かプレゼントが飾ってあるって聞いたよ。病室の窓辺に……』


『A。そんなの送った覚えがないな』


『B。花束のことか』


『C。千羽鶴のことか』


『D。クリーのことか!』


「サービス問題来た。って何だよ。D。某漫画の名台詞を混ぜるな!」

 赤城は2問目の選択肢に笑いながらツッコミを入れ、胸を張りCという文字をタッチする。すると、島田夏海は、画面越しに微笑む。


『そうそう。千羽鶴ね。あの千羽鶴、矢倉君と2人だけで折ったって聞いたよ。ところで、どうして千羽鶴なんてプレゼントしようって思ったの?』


『A。節子ちゃんの喜ぶ顔が見たかったから』


『B。節子ちゃんに早く元気になってほしいから』


『C。島田さんが節子ちゃんのことを大切に思っているから』


『D。島田さんを喜ばせたかったから』


 2問目のサービス問題に歓喜したの束の間。3問目の難易度は高かった。一見どれがS評価の答えでもおかしくない。

 赤城はベッドの端に座り考え込む。その果てに彼は島田夏海の言葉を思い出した。

「節子も喜ぶと思うから」

 あの時の彼女の言葉が本心だとしたら。

 次に彼の頭に浮かんだのは先日の矢倉の言葉だった。


「あのクイズゲームは基本的に空気の読み合いという駆け引き」

 その2つの言葉が重なった時、赤城恵一の中で答えが決まった。彼が導き出した答えはAだった。

 直後、ヒロインは再び笑顔を見せる。


『そうなんだ。私も節子が喜ぶ顔が好きなんだよね。今度は私にもプレゼントが欲しいな』


『A。いいよ。誕生日に何かプレゼントする』


『B。いいよ。今からその辺りのアクセサリーショップで何か買おうか』


『C。それだけはちょっと。お金がないから』


『D。場合によるな』


 これがイベントゲーム最終日最後の問題。赤城恵一は選択肢を読んだ瞬間、すぐに答えが分かった。CとDは論外。Bは強引な気がする。だから彼はAという選択肢をタッチした。その答えに対し、島田夏海は子供のように、無邪気に喜ぶ。

『本当。ありがとうね。楽しみにしてるから』


 こうして1回戦最終日のメインヒロインアンサーが終了し、結果がスマートフォンに表示された。

『結果発表。S評価4回。合計400好感度経験値を獲得しました』


 第1回イベントゲーム最終日のメインヒロインアンサーの赤城恵一の結果は全問S評価。

「マジかよ!」


 予想外な結果に驚きのあまり興奮する。


 しかし、その興奮は突然のスマートフォンの振動と共に冷めた。そこには『処刑者リスト更新』という文字が表示されている。

「まさか……三好君が……」

 三好が死んだのではないかという嫌な予感を覚え、彼は処刑者リストを閲覧してみる。


『4番。入山朝日。イベントゲームのクリア条件に満たず自分の部屋の中で首を吊る』


『42番。後藤隼人。イベントゲームのクリア条件に満たず、一家心中に巻き込まれる』


 処刑者リストに三好勇吾という名前が書き込まれていなかったため、赤城恵一は少しだか安心した。だが、目の前にあるのは2人の男子高校生が死んだという結果。この嫌な結果に胸を痛めていると、彼のスマートフォンにメールが届いた。



 そのメールの差出人はラブからのようだった。


『生存している30名の皆様。イベントゲームクリアおめでとうございます。各クラスの累計経験値ランキングベスト3にランクインされたプレイヤーの皆様へアイテムを配布いたします。是非攻略にご活用ください。さて第2回イベントゲームは連休明け5月7日から開催します。それまでの24日間、地道に好感度を上げ続けることをオススメします。死亡フラグケージが一杯に溜まったら即死亡ということをお忘れなく。明日より午前8時より15分間行われたミーティングタイムが廃止されます』


 おかしいと赤城恵一は思った。彼はこのタイミングでラブが生放送動画を投稿すると思っていた。その場で脱落したプレイヤーたちを罵るだろうと。しかし、動画は投稿されず、その代わりに事務的なメールが届いた。


 赤城恵一は妙な違和感を胸に抱え、クラスの累計経験値獲得ランキングを閲覧する。


『2年A組。好感度経験値累計獲得ランキング』


『第1位。桐谷凛太朗。6600経験値』


『第2位。村上隆司。 5400経験値』


『第3位。千春光彦。 4900経験値』


 5日間連続で第3位の席に鎮座していた滝田に代わるように、千春が第3位に輝いた。

 イベントゲームが終わり、しばらくは死への恐怖が和らぐのではないかと赤城は思いながら、少し早めに就寝する。




 4月13日。赤城恵一は先週と同じように悠久高校に通った。午前8時現在、教室には既に女子たちがいる。その状況は先週とは異なった。先週まで女子たちは午前8時15分頃に登校していた。あれからゲームのプログラムが修正されたのではないかと彼は思う。

 2年A組の教室には、生き残った10人の男子高校生たちが全員揃っていた。


 イベントゲーム終了から一夜が明け、桐谷凛太朗は静かに赤城の元へ近寄り、自分の席に座ろうとしている彼の耳元で囁く。

「生存おめでとう。約束通り何か一つ言うことを聞きましょう」

 赤城は桐谷が素直になったことに戸惑いを感じながら、彼と内緒話を交わす。

「ここだと話しにくい。だから放課後、俺の家に来い」

「分かりました」

 桐谷凛太朗が赤城から離れると、矢倉と三好が桐谷と入れ替わる形で、赤城の机の周りに集まる。

「桐谷君と何の話をしていたのですか?」

 矢倉が首を傾げながら尋ねる。一つ間を置き、赤城が彼が自分の席から立ちあがる。


「金曜日に約束しただろう。あのことだ。ここだと話しにくいことだから、放課後、俺の家に呼び出すことにした」

「そうか。放課後だったら俺は無理だな。俺には部活がある。だから部活が終わったら、赤城君の家に寄るから、桐谷君に何をさせるのかを教えてくれ」

 三好が赤城に頼み込むと、彼はそれを快く受け入れた。



 そして放課後、赤城恵一の部屋に矢倉と桐谷が訪れた。桐谷凛太朗が床に腰を落とすと、赤城は早速話題を切り出す。

「俺たちに恋愛シミュレーションゲームのいろはを教えてくれ」

 赤城恵一からの要求に、桐谷凛太朗は唖然とした。

「まさか僕を仲間にするのが要求かと思ったら、そんなことですか?」


「今後のデスゲームは、恋愛シミュレーションゲームを一度もやったことがない奴が脱落するようになっていくと思う。現に経験値補正や謎の経験値倍増システムに気が付かなかったら、今頃、俺たちは死んでいた。俺たち初心者でも生き残れるように、恋愛シミュレーションゲームの基本を教えてくれ」

「謎の経験値倍増システム?」

 桐谷は赤城の口から出た言葉を呟き、笑みを浮かべる。

「何がおかしいんですか?」

 桐谷の反応にイラつきを覚えた矢倉が尋ねる。すると桐谷凛太朗は2人に頭を下げた。

「ごめんなさい。恋愛シミュレーションゲームの基本を教えてほしいってことですが、残念ながら時間がないんですよ。今は午後4時20分。午後5時に赤城君の家を出ないと、劇場に間に合いません。だから残りの40分で基本中の基本だけをお伝えします」

 こうして桐谷凛太朗による恋愛シミュレーションゲーム初級講座が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る