メインヒロインセレクト
突然目の前に首が切断された遺体が現れたら、人はどうなるのか?
間抜けに腰を抜かし、恐怖から一歩も動けない人。
その場から安全な場所へと逃げ出すために、奇声を挙げ、ドアに猛スピードで体当たりする人。
恐怖から怯え、女々しく涙を流す人。
顔が強張り、声すらも出せず呆然とその場に立ち尽くす人。
グロテスクな現実に、嘔吐を繰り返す人。
体育館は、様々なリアクションをとる人々が共存する混沌とした空間へと変貌する。彼らを支配するのは、殺害に対する恐怖。
大量の嘔吐物と血液の匂いが漂う体育館のステージの上で、ラブは手を叩いた。
「20番の
ラブからの爆弾発言に男子高校生たちが驚く。
「どういうことだ?」
一人の男子高校生が尋ねる。
「そのままの意味ですよ? ここは仮想空間だから、いくら叫んでも助けはこないの。皆様の首に端末を填めて、体ごと仮想空間へ送り込んだということね。その首輪、力任せで無理矢理外そうとしたら、死ぬことになるから大切にしてくださいよ」
恵一は首輪に触れながら、ラブを睨み付ける。同様に屈辱的な経験に怒りを覚えた男子高校生達も、ゲームマスターを睨んだ。
しかし、ラブは怯むことなく、覆面の下で笑顔になる。
「デスゲームの基本ルールは簡単。これから行われるゲームを全クリしたら、生きた状態で現実世界に戻れる。だけど、ゲームに負けたら遺体となって家族やお友達と対面することになる。単純明快でしょ?」
おかしいと赤城は思った。この現代社会に仮想空間が存在するはずがない。それが存在するのは近未来ファンタジーの世界だけのはずだ。赤城は疑惑の目でラブを見る。
それからラブは淡々と説明を続けた。
「恋愛シミュレーションゲームと聞いて安堵した皆様。残念ながらゲームオーバーは現実世界の死というお約束は健在ですので、お忘れなく。それでは最初に予選を行います。予選は普通にプレイしていたら、ゲームオーバーにならないから、安心してください。予選ゲーム前半戦は、メインヒロインセレクト!」
ゲーム名がラブによって発表され、集められた48名の男子高校生たちは息を飲む。
「まずは皆様の制服のポケットに仕込んでおいたスマートフォンを取り出してください。そのスマートフォンは、予選と本選のゲームに使うので、大切に使ってくださいね。今は『メインヒロインセレクト』っていうアプリしか入っていないけど、ゲームが進んだら、メールアプリとか必要最低限なアプリは解禁するからね。因みに皆様が持っていたスマートフォンは全て回収して、破壊しておきました。それでは皆様、スマートフォンに表示された唯一のアプリ『メインヒロインセレクト』をタッチしてください」
ラブは明るい口調で破壊という言葉を使う。これまで576人もの男子高校生たちを殺してきた男達であるという事実は信ぴょう性が高いと赤城恵一は思った。
48人もの男子高校生たちは一斉にスマートフォンを取り出し『メインヒロインセレクト』という名前のアプリをタッチする。
その画面には、13名のヒロインに関する文字情報だけが映し出されている。
「ルールは簡単です。恋愛シミュレーションゲームのメインヒロインを13人から1人選ぶだけです。メインヒロインは変更できませんので悪しからず。制限時間は2分間。ゲーム開始の前に1つだけヒントです。難易度Cは初心者向け、難易度Bは中級者向け、難易度Aは上級者向けです。選択はヒロインの名前をタップすればいいからね。あっ、2分以内に攻略ヒロインを決められなかった優柔不断くんは、問答無用で殺しちゃうからね。話し合いは禁止ということで、ゲームスタート♪」
赤城恵一はスマートフォンに表示されたヒロインの情報に目を通す。
『ナンバー01。病弱な後輩。
『ナンバー02。底辺アイドル。
『ナンバー03。歴女な一面もある文系女子高生。
『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。
『ナンバー05。体育会系元気ガール。
『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。
『ナンバー07。演劇部のマドンナ。
『ナンバー08。中二病家庭教師。
『ナンバー09。ツンデレ転校生。
『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。
『ナンバー11。アニオタガール。
『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。
『ナンバー13。ヤンデレ外国人。
「何だよ。無印って……」
赤城恵一は、少ない文字情報に目を通しながら呟く。
すると、どこからか奇声が聞こえて来た。
「アイドルだ。アイドル一直線!」
奇声を放ったのは、黒縁眼鏡に太った体型の高校生。その風貌は如何にもオタク。
「何だ? あいつ……」
赤城は小声で呟き、スマートフォンの画面に注目する。スマートフォン画面の右端には時計が表示されていて、時間が刻一刻と減っていく。
残りの制限時間は1分程。赤城恵一の結論は決まっていた。恋愛シミュレーションゲームとは無縁の生活をしていた彼は、初心者である。
だからラブが言っていたように、初心者向けの難易度Cのキャラクターを選択すればいい。
このような単純な思考が頭に浮かび、赤城恵一は、島田夏海の名前をタップする。
多くの少年たちは必死で制限時間内にメインヒロインを選択する。
全ては自分が生き残るために。
スマートフォンが震え、予選ゲーム前半戦の制限時間を迎えた。
「制限時間終了のようです。皆様、喜んでください。この中に、制限時間内に決断できない優柔不断くんは一人もいませんでした。エライ、エライ。それではゲームの結果発表をします。スマートフォンの画面をご覧ください」
ラブがマイクを握りながら、男子高校生たちの顔を見下ろす。
間もなくしてスマートフォンの画面が更新され、このような文字が表示された。
『ナンバー01。病弱な後輩。島田節子。2名。10番。
『ナンバー02。底辺アイドル。倉永詩織。2名。3番。
『ナンバー03。歴女な一面のある文系女子高生。島田夏海。8名。6番。
『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子。3名。14番。
『ナンバー05。体育会系元気ガール。樋口翔子。5名。12番。
『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋。7名。2番。
『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣。3名。7番。
『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈。4名。4番。
『ナンバー09。ツンデレ転校生。石塚明日香。1名。39番。
『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。平山麻友。2名。11番。
『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌。3名。27番。
『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美。5名。1番。
『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀アリア。2名。41番。
スマートフォンに映し出されたのは、誰がどのメインヒロインに投票したのかが分かる名簿のような画面だった。
その結果を受け、ラブが覆面の顎に手を置く。
「面白いですね。同じ難易度Cなのに、マニュアル人間の理系女子高生、三橋悦子が3名と不人気なのは。一番人気はナンバー03、歴女な一面もある文系女子高生の島田夏海で8名。それとナンバー12、二重人格者な学級委員長、小倉明美が5名なことも興味深いですね。ツンデレより巨乳キャラの方が人気高いのかな? テキトーな感想はここまでにして、後半戦、ゲームスタート♪」
前半戦のゲームはゲームマスターに歯向かった不良少年、山口武以外のプレイヤーたち全員が攻略に成功した。
13名のヒロインから一人のメインヒロインを選択するだけのゲーム。
そんな簡単なゲームの中に、予選後半戦の恐るべき罠が仕掛けられていたことを、生き残った47人のプレイヤーたちは知らなかった。
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