クラス希望調査ゲーム
その時、47人の高校生たちのスマートフォンが一斉に震えた。
彼らは何が起きたのかと、一斉にスマートフォンを確認する。その様子をステージ上で見下ろしていたラブがマイクを握りなおす。
「ゲームを始める前に、皆様、朗報です。メールアプリとインターネットアプリをダウンロードしてみました。ただし、ネットワークは外界とは切り離されている独自の物を利用しているので、現実世界にいる人たちとは連絡できません。さて、皆様のスマホにメールが届いたと思います。文面はメインヒロインに関するプロフィールとURL。そこ経由で特設サイトにアクセスしたら、ゲーム攻略に役に立つ情報が見られるので、気になったらアクセスしてみてね。ということで、今から後半戦のゲームを開始します。後半戦のゲーム。それは、クラス希望調査ゲーム。まずはインターネットアプリをタッチしてね♪」
新たなるゲームの名前を聞き、体育館を騒然とした空気が包み込む。
彼らはラブの指示に従い、インターネットアプリをタッチする。すると、あるサイトにアクセスできた。
それはABCという文字が表示されているシンプルなデザインのアンケートサイト。
「ルールは至ってシンプルです。皆様には前半戦のゲームと同じように、好きなアルファベッドを選択してもらいます。ただし、アルファベッドにはそれぞれ16名という定員が設けられています。仮に定員を超えてしまった場合、敗者決定戦を開催します。アルファベッドはそのまま本選でプレイヤーが所属するクラスになるから、テキトーに選んだら後悔しながら死ぬよ。慎重に選んでね。あっ、忘れてた。敗者決定戦で負けたら公開処刑♪」
それは前半戦のゲームとは違い残酷な物だった。定員漏れになれば、運次第でゲームオーバー。理不尽だと思った恵一は、ラブの顔を睨みつける。
ラブはプレイヤーたちに文句を言わせる暇を与えず、矢継ぎ早に説明を続ける。
「ここでヒントです。メインヒロインのプロフィールにA組とかB組ってあったじゃないですか? あれと同じ組を選択したら、本選のゲームを有利に進めることができるかもしれませんね。因みに無印と記された奴はどこに投票しても有利不利に関わらないので、テキトーに選んでください。制限時間は15分間。最大6人のグループを作って話し合うことも可能です。47人全員が1か所に集まって話し合ったらゲームとして成立しないからね。グループの招集は任意だから、必ずグループを作って話し合う義務はありません。制限時間内であれば、いつでも投票を変更できるからね。それではゲームスタート♪」
大きなブザーの音と共にゲームが開始される。男子高校生たちの殆どはグループを結成せず、バラバラになって自分のスマートフォンの画面をタッチしている。現在体育館には2つのグループしか出来上がっていない。話し合う必要があるのは無印組のみ。それ以外のメインヒロインを選択したプレイヤーは、単純にメインヒロインと同じクラスに投票するだろう。
赤城恵一は体育館の隅に集まった2つのグループを横眼で見ながら、スマートフォンに表示されたAというボタンをタッチしようとする。
だが、彼はラブの言葉を思い出す。先程届いたメールのURLを開いたら何か分かるかもしれない。
その言葉が気になった彼はホームボタンを押す。するとインターネットアプリとメールアプリしか入っていない簡易的なホーム画面が現れた。
メールアプリには赤い丸で囲まれた『1』という数字が表示されている。
ラブが言うように、メインヒロインのプロフィールがメールで配信されていた。
『ナンバー03。歴女な一面もある文系女子高生。島田夏海。A組。難易度C。好きな戦国武将は武田信玄』
そのメールの末字にはURLが貼ってある。
彼はそのURLをタッチする。するとインターネットアプリが立ち上がり、画面上に前半戦のゲームの結果が表示された。
「まさか、このゲーム……」
少年がゲームに仕掛けられた罠に気が付いた頃、体育館の片隅で5人のプレイヤーが1人の高校生を囲んでいた。
その円の中心には太った外見に黒縁眼鏡をかけたオタク風の高校生が立っている。
「分かりましたか? 皆様。これがこのゲーム、いや本選で行われる恋愛シミュレーションデスゲームの必勝法です。まあ、この程度のことは、難易度Aのヒロインを選択したプレイヤーなら常識問題ですけどね」
「それは危険な道かもしれないぜ。正気か?」
丸坊主に大きな瞳が特徴的な男子高校生が中心にいるオタクに尋ねる。するとオタクは黒縁眼鏡を外しながら、頬を緩ませた。
「簡単な話です。敗者決定戦に勝てばいいだけでしょう。それにこれはバトルロイヤル。誰かを蹴落とさないと生き残れないかもしれません。もちろん僕も、敗者決定戦に参加します。これで満足でしょうか。残りの皆さんは自由にしてください」
オタクたちが集会を開いていると、赤城恵一は大声で叫んだ。
「おーい、島田夏海、堀井千尋、平山麻友。前半戦のゲームでこの3名の誰かに投票した奴。5人でいいから俺の周りに集まれ。話がある」
その少年の声を聞き、最初に右手を挙げて近づいてきたのは、黒い髪を角刈りにした高身長の男子だった。
「島田夏海に投票した矢倉永人だけど、話って何ですか?」
首を傾げる矢倉の声に、お河童頭の下半分を刈り上げたかのような髪型をした黒髪の少年が食いつく。
「おぅ、仲間だな。俺も島田夏海を選んだ多野明人だ」
矢倉と握手を交わそうと右手を差し出した時、丸坊主の髪型に筋肉質な体つきの野球少年が恵一の前に駆け付ける。
「堀井千尋に投票したヤツ集まれって言わなかったか?」
続けて、寝ぐせが目立つ黒ぶち眼鏡の少年も歩み寄る。その隣にはお河童頭の少年もいる。
「滝田湊です。僕も島田夏海を選びました」
滝田の隣にいた高坂洋平は手を挙げた。
「高坂洋平です。僕は平山麻友に投票したのですが、それがどうしたのですか?」
周りに集まった5人の少年たちと顔を合わせながら、恵一は説明する。
「ああ、みんな聞いてくれ。実はこのゲーム、とんでもない罠が仕掛けられているんだ。小学生でも分かる簡単な足し算だよ。A組に所属してるヒロイン、島田夏海は8名、堀井千尋は7名、平山麻友は2名、合計は17名だ。つまり、この3人に投票したプレイヤーが全員攻略に有利だからという理由でA組に投票したら、確実に1人死ぬ。だから俺を含む16人で、溢れた1人を別のクラスに投票するように仕向けないと、全員で本選には進めない。ここに集まった6人の中から1人だけでいいから、別のクラスに投票してくれ」
この説明を聞き、三好勇吾が右隣りに立っている高坂洋平の胸倉を掴み怒鳴る。
「お前。別のクラスに行け!」
「どういうことでしょうか?」
「とぼけんなよ。お前が平山麻友に投票したってことは分かっているんだ。平山麻友は難易度Aのヒロインだ。即ちお前は、恋愛シミュレーションゲーム上級者だということだろう? お前だったら、ハンデがあったって、何とかなるはずだ!」
「難易度Bの堀井千尋に投票した野球少年が何を言うのですか?」
「うるさい。俺は野球部のマネージャーだったら難易度なんて気にせずにゲームをクリアできると思ったから、彼女を選んだだけだ。兎に角、俺は生き残りたいんだよ!」
優男は、その言葉が聞きたかったかのように、頬を緩め、右手を大きく上に挙げた。
「野球部という言葉に惑わされた初心者でしたか? 僕はくだらない争いは好まないので、身を引きますよ。とりあえず一番票数が少ないC組に移動します」
「約束だからな!」
野球少年が強い口調で優男に言い聞かせ、胸倉から手を離す。話し合いはあっさりと終わった。平山麻友に投票した高坂洋平がC組に投票すると言う形で。
高坂がグループから離れていき、残った5人で一斉にA組へと投票する。
そしてゲーム開始から15分後、再びブザーが鳴り、ゲームは終了した。
「ゲーム終了です。それでは早速ですが、ゲームの結果発表を行います。一応スマートフォンにも結果発表を表示させますが、まずは口頭で結果を公表しますね。投票の結果、A組19名、B組15名、C組13名となりました」
その時、男子高校生たちのスマートフォンが振動して、投票画面が切り替わった。
B組に投票した者のスマートフォンの画面にはBという文字が表示されるように、画面には自身が投票した組を示すアルファベット大きく表示されていた。
赤城恵一には何が起きたのか理解できなかった。あの時、高坂洋平は、C組に投票すると言って、A組投票を諦めたはず。
「どういうことだよ? てめえ、裏切りやがったな!」
三好が高坂の胸倉を強く掴む。だが高坂は何のことなのか分からないように、白を切る。
「何のことでしょう? ちゃんと僕はC組に投票しましたよ。これが証拠です」
高坂はスマートフォンの画面を三好に見せる。その画面にはハッキリとC組という文字が表示されていた。
「じゃあ誰だよ!」
三好が舌打ちして高坂から胸倉を話す。
すると、A組に投票した赤城達の前に3人の男子高校生たちが現れた。その3人の中心にいたのは、太った体型に黒縁眼鏡を掛けた男。前半戦のゲームで奇声を出しながらアイドルに投票した男であることを、赤城恵一は思い出す。
「あなたたち。本当は馬鹿でしょう。根本的に間違えています。このゲームは本選のゲームを有利に進めるためのボーナスゲームではありませんか?」
黒縁眼鏡の太った男が絶望している15人のプレイヤーたちを見下す。
「お前こそ馬鹿だろう。こうなることは分かっていたことだろうが! なぜ態々定員割れが決まっているA組なんかに投票した?」
赤城がオタクと目を合わせ、抗議する。だがオタクは赤城の言動に首を傾げる。
「もう一度言いますよ。あなたたちは何も分かっていない。簡単な足し算で導き出した答えで罠を見抜いたつもりになっているだけ。このゲームに仕掛けられた罠は、足し算では分かりませんよ。逆に聞きます。この中で島田夏海に投票した8名の皆さん。運営から送られたメールに、攻略に必要な情報が掲載されていますよね。それを読んでください」
赤城恵一はスマートフォンに表示されたメールを読みながら、オタクに尋ねる。
「好きな戦国武将が武田信玄だからってそれがどうした?」
「その情報こそが罠だったんですよ。この罠を見抜くために必要なのは小学生でもできる計算ではなく、洞察力。僕の隣にいる2名は島田節子ちゃんに投票したプレイヤーです。それでは節子ちゃんに投票した方。メールを読んでください」
オタクに促され、隣にいた2人の高校生は同じタイミングでメールを音読した。
「因みに、島田夏海は一歳年上の姉である」
「そう。彼らの目的は、島田夏海をサブヒロインにして、攻略を有利に進めること。これで分かったでしょう。僕たちがなぜ危ない橋を渡って、定員割れのA組に投票したのか?」
「桐谷凛太郎様。そろそろ良いですか?」
ラブがマイクを左手から右手に持ち替えながら首を傾げてみせると、そのオタク、桐谷凛太郎は笑顔を見せた。
「はい。もういいですよ。そろそろ敗者決定戦を始めましょうか?」
ラブは咳払いしてからマイクを握りなおす。
「A組に投票した、百谷次郎様。千春光彦様。桐谷凛太朗様。川栄探様。滝田湊様。谷口宗助様。新田健一様。小林優馬様。矢倉永人様。多野明人様。赤城恵一様。市川陸様。石川太郎様。島崎海斗様。中村晴樹様。村上隆司様。櫻井新之助様。杉浦薫様。以上19名の中から最低3人が脱落。すなわち、命を落とす。敗者決定戦の始まりです」
敗者決定戦。これから行われるゲームは、恋愛シミュレーション初心者たちを絶望の淵へと追い詰める物だった。
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