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なんてことはない。そいつぁ祈りさ。
落ちぶれた聖堂は、一見すりゃやさぐれているように思えないかい。ま、所詮人間の信じる神様がいねぇ教会にいたところで神様も暇っつーもんよ。人間の身勝手な願いを寝っ転がって欠伸しながら聞いてるだけなんて楽な仕事だけどよ、それでも人間が来なかったら暇すぎて死んじまうっつーの。神様ともあろうモンが本当に死んじまうかはちょっと見物だろうけどよ、試すってーわけにもいかんだろう? それにそうそう死にゃぁしねーから暇だけがゴロゴロ転がって積もって山となってんのさ。
だからこの教会にはよっぽどの変人じゃねぇと来ない。たまに神父やら変なおっさんとかが来るが、あんなの希だ。んで、そういう奴に限ってろくでもねぇ事情を抱えてやがる。聖堂ってのは人間じゃねぇ俺っちでもわかるぜ。ここは人間の街にも、ましてや自然界にもない、真っ白な場所だってな。汚れも綺麗さもねぇ。人間の価値観で生まれた筈なのに人間の価値観を超えた空間さ。お、俺っち上手いこと言ったな。兎にも角にもそんな場所だから訳ありの人間がふら~っと寄っちまうってわけだ。頭の中がくすんでるのか、またまた清浄な空気に触れて清浄な心を取り戻したいだけか。
それでも薄暗い聖堂の中ってのは人間にとっちゃ精神的な不安を覚えるところらしいが、そうは問屋が卸さないってのが黒雀なのさ。意味ねぇけどな。闇まで見渡せるこの二つの愛らしい目は聖堂でひたすらに祈っている我が姫をただただ傍観しているのみさ。紳士ともなれば野暮な真似はしねぇってもんだ。何しろ俺っちは出来た紳士だ。そこらの雀なんかたぁ格が違うってもんだろ。出来る紳士ってのはな、必要以上に他人へ干渉しねぇもんさ。
牢獄のように、はたまた孤島のような孤独感と苦痛を伴う空虚な聖堂。孤児院でありながら、そこに人なんていやしねぇ。子供達は自室にいる。奴らは皆、無意識にココを避けてるんだろうぜ。
此処にいられるのは俺っちのみ。
此処をこんな風にしたのはたった一人の少女。
世界に不思議がねぇとするなら、彼女について説明出来るかい? 世の中は奇天烈なことがないから暇だ平和だと馬鹿みてぇに歌っているガキ共は、さぁ注目だ刮目しやがれ。世の中の平和というのがどれだけ有り難く、そして恐ろしく脆いもんかを一度その目ン玉に焼き付けときゃあ甘い考えなんざ瞬間に吹き飛ぶね。そんな経験もなく温々としてやがるから、平和をぶち壊してスリルとサスペンスなんて愚かなもんを求めやがるんだ。
そろそろ太陽が一個分西の山ん中へ移動したところかね。
彼女は立ち上がったんだ。だから俺っちは彼女の肩に留まった。ここは俺っちだけの定位置さ。他の誰にも譲りやしねぇ。さぁてそろそろ彼女の時間だぜ。人間共が脳天気に望んだ結果がどれだけ最悪なものか、しっかり目蓋に刻んでおけよ。
しかし、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。俺っちはただ単に話を聞いている。それは単純に言えば後悔だった。だからといって俺っちが慰められると思ってもらっても迷惑な話だな。何しろこちとら黒い雀だ。平和の使者でもなんでもねぇ。
「そうだよね」
立ち上がった彼女は聖堂の出口へ向かっていった。
おや、珍しいね。
確かに間もなく夜へと変貌するが、彼女自身がこんな早い時間、まだ太陽が出ている時間に外へ出るなんて──とびっくらこいていると、そりゃ俺っちの早計だった。
彼女はまだ『白い』
なんだ、てことは誰かの魂を狩りに行くわけじゃねぇんだな。
「うん」
その頷きは優しい声だったね。
「耐えられそうもないから、目覚めさせてくるね」
あーぁ、まさかとは思ってたけど、本当にそうなるのか。
優しさを反転させたら、なんて恐ろしい暗闇が顔を覗かせるんだろうね。
軽口でそんなことを言うなよ。
──と、忠告してやりたいところだが、前述のように俺っちは干渉しねぇのさ。
だから彼女の好きなようにやらせてやるんだ。
まぁ、俺っちが見てる範囲で言うんなら。
……好きなことなんざしたことないけどな、彼女は。
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