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堆いこの場所は町全体を見下ろすのには最適だった。
月が浮かんでいる。まだ満月になりきれていない、しかしもう間もなく満月となろう星が大きくひっそりと浮かんでいた。暗闇に包まれる町を冷たく鋭く、それでいてどこかぼやけた感じに照らしている。冷たい光に関わらず、それが冷たいなどと思わないのは、おそらくもっと冷たい存在がいるからだろう。存在は全てを承知した上で、ここにいる。
冷たい──のだろうか。
町の中で最も高い場所は、その存在を望む者を探すのに丁度いい。望んだ者の前に現れ、やるべきことをやる。そうでなければ己の存在意味はどこにもない。存在するためにそれをやるのか。それとも、望まれてしまったからやるしかないのか。
その存在は巨大な鎌を手にしていた。
黒い、まるで死者への手向けのような黒い服を身に纏っている。首からは十字を模したペンダントが下げられ、鎌の輝きとは違う光を密かに灯していた。長いスカートと白い手袋のせいで露出しているのは首から上だけだったが、逆にそれが肌の白さと黄金の長い髪を際だたせることになった。深夜の闇に溶け込むような服の黒は、どういうわけかそこに溶け込まず、同色の闇よりなお強い漆黒を滲み出す。闇よりも暗く、静寂よりも音がない。人の形をとりながらも明らかに人と違うその存在感。
巨大な鎌は何も云わない。
その存在も喋ることはない。
鳥が羽ばたいた。巨大な鎌と対と為す程に小さな鳥だった。
その存在の両の瞳は鋭く、どこかに向けて威嚇しているようにさえ思える。しかし感情が伺えない双眸は誰に対して向けられたものかすらひた隠しにしているようだった。
誰もが寝静まった夜の中に、その存在はそっと消えた。
今日もまた、望む者の命を狩りに往くために。
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