Zwei
ほんとうの神様
死神って神様を知ってるかい?
絶望とか、悲しみとかに溢れちまった神様を知ってるか?
いやいや、神様だからってそれが別に望みを叶えてくれたり救ってくれたりするわけじゃぁない。お人好しに期待する奴ぁバカだし、お人好しなんざそうホイホイとそこら辺にいるもんじゃないしな。そもそも他人の力を頼ろうなんて思う奴はロクな奴じゃねぇ。こりゃあ俺っちの持論だ。
教会の屋根から見下ろす町はどこまでも広いが、ここに住む人間ってーのは、この町に住むにゃちと狭いな。ん、何が狭いってか? そりゃあ、あれだよ。同じ人間だったらわかるだろ?
まぁ、あれだ。
俺っちみたいに羽を広げて飛べない人間なんざ、たかがしれてるってわけだ。地から空を見上げ、それを敬い尊敬し、嫉妬する。地面に立って空を見上げてそこへ行きたいと望んだ時にそこへ行けないなんて、どんだけ寂しいことなんだろうなぁ。俺っちはそんなことない。この黒い翼さえあれば、どこまでだっていける自信があるさ。だからあんた達の気持ちなんざわかりゃしねぇってもんだ。
だけどな、そりゃあ昼間だけの話さ。お天道様がかんかんとして地上を照らしている時にだけ、そう思うんだよ。一方、お月様が睨んでらっしゃる時はまったく別だったりするんだよな、これが。どのぐらい違うかっていうと、人間なんて夜になっちまえば怯えて寝こんじまうといった具合だ。こりゃあ相当違うぜ。
理由だって簡単だ。
夜は人間が触れてはならない存在がいるんだよ。
誰もその姿を知らないはずなのに、どういうわけかその影にビクビクと怯えやがる。おそろしく敏感に、おそろしく小動物的に。深い霧の中に埋もれた家の中に閉じ籠もってりゃ見つからないとでも思ってやがんのかな。だがな、それですら自分達で自覚がねぇんだから困ったもんだってな。そうさ、俺っちだけが知ってるんだぜ、その正体を。
──長い金髪が風になびいた。
その髪は闇を切り裂く光に似てる。
教会の屋根は、ともすればこの町で最も高く、最も空に近いんじゃないかって錯覚しちまう。その屋根の上に立ち、彼女は町を見下ろしていた。彼女の真後ろには満月がある。満月は闇の中に浮かんでいる。闇と少女は同じ存在だ。彼女がすげぇのか、それとも闇の中でなお輝くお月様がすげぇのか、それは誰にも答えようがねぇな。
喪服のような黒い服。手には、少女には似合わない巨大な鎌。まん丸いお月様を背に、彼女は小さく呟いた。
「みつけた」
その言葉を合図に、俺っちは翼を広げた。俺っちをそんじょそこらの鳥と一緒にするんじゃねぇぞ。暗闇でもしっかりと見えるんだからな。そんなすげぇ俺っちは空高く羽ばたき、彼女を見る。
彼女こそ、夜の恐怖。
彼女こそ、本当に望まれた存在。
真実を具現化された結果が彼女なんだよ。あの巨大な鎌で人の命を狩る、世界で唯一の尊き神。絶対唯一とはいわねぇ、もしかしたら違う形があったかもしれないからな。
ところで、彼女のその名を知りたくはないかい?
この希望の町に現れた、悲しい運命を背負う少女のことをね。
いくらなんでもそろそろ想像ついてるたぁ思うが、彼女はなぁ……。
──死神だよ。
そんで。
今日もまた、朽ち老いた命が狩られていくのさ。
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