第一部 目覚めと出会い、そして試練
異形の目覚めと誰かの言葉
目が覚めた。
薄暗い部屋の中で、何かに摑まりながら身を起こす。
見覚えのない部屋だ。どうやら窓や部屋を照らす物は無いらしく、僅かに天井から差し込む光のおかげでようやく部屋の中が見えると言ったところだろうか。
自分の寝ていたベットから降り、向かいの壁に取り付けられている大きな鏡の前に立つ。
見れば、そこには緑色の髪、目の男がいた。腕を動かすと目の前の男も動かすので、「これが自分なのか。」と、思わず唖然とした。
だがある部位を見たとき、思わず声を上げそうになった。
他の部位とは確実に違う色、形。
どう見ても人間とは違うもの。
ボクの左腕は、明らかに異常な状態だった。
「何……コレ……っ」
思わず口から出してしまった声はとても掠れていて、これ以上考えてはいけないというかのように頭痛が続いている。
自分の姿を見ないように、鏡の前から離れた。
なんとか治まってきた頭痛を頭を振って振り払うと、目の前にあるテーブルに少し古びた紙が置いてあるのがわかった。
何かが書いてあるようで、ボクはゆっくりとその紙を開いた。
その紙には誰かへの言葉が書かれていた。
宛名は汚れて読めなくなっていて、誰に対してこの言葉を書いたのかは分からなかった。
『……へ、身体は大丈夫?左腕は痛くないかしら。きっとそんな体になってしまって驚いていると思うけど、これにはちゃんとした理由があるの。今、この世界は水や植物の枯れた、人間にとって生きていけない世界に変わりました。
普通の人間では生きていけない世界で生きていくには、こうするほかなかったの。
私達は貴方の身体を改造して、この世界に適応した身体に造り替えることにしたの。残念ながら、左腕は損傷が酷かったから私達の開発した新種の植物を移植させてもらったのよ。神経と繋がっているから自由に動かせると思うわ。
貴方ならきっと、この世界でも生きていける。ただ一つ、心残りなのは……』
「……?」
そこから先は汚れていて読めなかった。
おそらく、ここに書かれている『貴方』とはボクのことだろう。親しい仲だったのか、文字からは暖かい感情を感じる。
けれど、この人達の心残りとはいったい何だったのだろうか。
自分達も生きられなかったことか、それともまた別の何かか……
とりあえず、自分の置かれた状況を少し理解することができた。
あらためてこの植物……左腕を動かしてみると、本当に自由に動かすことができた。案外、こういうものなのかもしれない。
ボクの他にも、似たような『ヒト』がいるのだろうか。
まず、あの紙の人達は今どうしているのだろうか。
ボクは自身の寝ていたベットに座り、部屋を見渡す。
壁には外に出られるようなところはなく、部屋の中は所々に埃がたまっている。
ふと、自分の摑まった物は何だったのかと視線を移す。
そこには様々な本が入った棚があった。
一つ手にとって見てみると、何やらいろんな植物の絵がかいてあるものだった。表紙には『植物図鑑』と書かれている。
開いたページには小さな紙が挟んであり、そこには誰かの手で書かれた文字がずらっと並んでいた。
その紙には「この花は……付近にあるから僕でも取りに行けそう」とか、「花屋には置いてなかったから写真だけでも手に入れたい」などのことが書かれていた。植物が好きなのだろうか。
ぱらぱらと見てその本をしまい、次はその隣に置いてあるノートを手に取った。
そこにはたくさんの設計図がかかれていて、その一つ一つにかなりの量の書き込みがしてあった。
中でも大きな花丸の書いてあるページが数ページあり、そこには『作成完了』と書かれていた。
薄い紫色の花のアクセサリーのようだ、いったい何の植物なんだろう……。
他の本やノートも見たが、内容はそこまで変わらなかった。
最後の一冊を棚に戻して、天井の穴を見上げる。
うっすらと光のすじが見えるそこは、この閉鎖された空間で唯一外へと続く場所だ。ある意味、『希望』を表すものではないだろうか。
そんな光を掴もうと、右手を伸ばした———その時……
ドガァン‼
壁が大きな音と共に崩壊した。
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