第2話  咲

 私の名前は咲 3つ年上の姉は日向

私はもうすぐ中学校の二年生になる

 私たちは大学までエスカレーター式の学校に行っている

私は今大きな紙袋をもって歩いている中身は食べ物

これを叔父さんに届けるのだ

 私は叔父さんが大好き 世の中で一番好きな人しれない

叔父さんはいつも面白い話をしてくれるし世の中のことをいろいろ知っている

 両親がいろいろいうのは正しいと思えないことや理不尽だと思うことばかりなのに叔父さんが言うことはわかりやすく押しつけがましくもなく

頭にするする入ってくる それはきっと正しいことだから・・・・

 それに世界中に行っていて楽しい話をしてくれる

今は 椅子に座ったきりだけど若々しくてハンサムだそういう話をしてくれる時は

瞳にうっすらと静かな生気がともり私は映画を見ているような気分になる

だからこの役目はとても嬉しい

 そんな叔父さんを姉は怖いと言う

「 何が怖いの?」私は心底不思議に思って聞いた

「あなたは何とも思わないの あんなくらい部屋に座ったきりでもうもう何年も

「だって それは病気だからでしょう」私は姉の言っていることがよくわからなくなる 

「 いくら家から出なくても叔父さんは大人なのだしなんと言ってもお金持ちで家だって自分で建てたんだから問題ないでしょう」そう叔父さんには何の問題もない


 話し合いは堂々巡りになるのでやめた

姉ただ臆病なのだ ただそれだけのこと 

でも姉は学校では人気者でいつも彼氏がいた

 たいてい目立って体が大きくて正義感が強いか、不良ぶった男の子の両極端

要するに保護者が欲しいのだ でもそのおかげで私はくだらないいじめにも会わなかったし

しつこく付きまとってくる男の子を追い払ってもらったこともある

 それにこの被害妄想の一番の特典は叔父さんの家に食料を届けにいくのが私の役目になったのが嬉しい

 叔父さんの家はつる草だらけになってしまって気を付けないとどこがドアかわからない

 そういえば叔父さんが年を取らないことさえ姉は怖がる

「私は 見るたびぞっとする 昔と一つも変わらないんだから何一つ変わらない姿で座っているのよ」

「それはいいことじゃないの」私が言うと「お父さんより年上なのよ」と言う

そこで私は笑いそうになってしまって黙った

 お父さんとは違うまるで違う  お酒も飲まないしあんなに遅く帰ってこない

それからそんな議論もやめた

 姉も言わなくなった

私と姉もまるで違うのだ

 ガサガサツタの絡まった扉を開ける建物もツタでいっぱい 建物の横の小道のも

植物が屋根を作って蛇行している

 都心なのでビルがいっぱいだが、ここは誰も気づかないし入ってこられないだろう 

 秘密基地 秘密のお城 

 奥には 南京錠のかかったドアがある

ドアを開けて真っ暗な階段を下りる時はいつもドキドキする

 昔 叔父さんがよくしゃべっていた子供のころ

 面白いと言っていたレベッカという映画を思い出す

白黒だし長くってよくわからなかったけど覚えているのは階段と肖像画と

それから船の中でレベッカは夫に突き飛ばされて頭を打って死んでしまったということレベッカがいつまでも笑っているのでおかしいと思った夫がさわったら死んでいた 

 レベッカは悪い人だったらしけど綺麗でお菓子みたいなかわいらしい服を着て笑ったまま海に沈んでしまった

 子供なりになんて素敵なんだろうと思った

姉は馬鹿にしたように「あれは 怖い話なのよ」なんて言っていたけど

 子供の時見たイメージが美しく膨らんでしまってもう一度見る気にならない

 レベッカはきっとまだ海の中で笑っているかも そう思っていたほうが楽しい

 暗い階段を下りておいてあるマッチを擦る

古ぼけたランプを持つとまた胸がドキドキした

何かやわらかいものが足に当たってカサコソ小さな足音を立てる

 「パフ」小さなこえでよぶと 暗がりから 「にゃあああん」と声がした

パフは勝手に住み着いてしまった猫だがこげ茶と黒で背中だけ粉砂糖

をふりかけたみたいに白くなっている

 叔父さんがパウダーと呼んでいたが呼びにくいのでパフになった

とてもしなやかに動くここはひんやりとして暗くって海の底みたいに

静かだが パフだけが太陽の匂いがする

 パフの為に持ってきたキャットフードもあるので歓迎してくれるのだ

パフと私だけが自由に外と中を行き来できる

  

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