叔父さんが外に出られない複雑な事情
のはらきつねごぜん
第1話 日向
自分で言うのもおかしいけれど私は洞察力のある子供だったと思う
そして、それはたいていは裏目に出た
これから書くのはそのことで変わってしまった自分あるいは何人かの
人生でそれがいいことだったのか悪いことなのかわからないが
書くことによって少しはその重荷が下りればいいと思ったしどうせ
他人は本気にしないだろう
人は自分の目で見たことしか信用しない
でも見ているものがみんな同じものなのか確かめるすべはない
例えばルイスキャロルが眼病で本当に小さなものが突然大きくなったり
するのを当たり前に見ていてそれを不思議の国のアリスに使ったのは有名な話だし
もしかしたらチェシャ猫やキノコの上の芋虫も見えていたのかもしれない
霊感とかそういうことではなく目の病気や心の病気
そして悪意や先入観そんなことで物事は簡単に変わると思うが自分で見たことは
絶対的で誰もそれを疑わない
人間同士の信頼関係には感情だけではなくこういう気が付かない視覚のぶれが
大きくかかわっていると思っているが 自分が見たことはあまりにも常軌を
逸している
でもあれは確かに起ったことで 今でもあの湿った空気やほこりっぽい
匂いそしてがさがさと動いていた葉の音
今でも夢に見るし昨日のことのように思い出せる
叔父さんは父の兄で初めて会った時は確か自分は5歳位だったと思う
まだ独身でびっくりするほどハンサムだと思ったのを覚えている
今思えば あれが叔父さんの人生で最高の時だったと思う
エリートで大もて、大忙しの毎日で、世界中を飛び回っていた
世の中は明るく景気に満ちていて外国から帰ると必ずお土産を
持ってきてくれた
背が高く大きな声で笑う人だった
話の発端は叔父さんが家を買ったことだった
都内の一等地で庭付きの外から見えないように高い塀を立てた
自分には妹が生まれたがこのころまだ独身だった
世の中が一気にひっくりかえり不景気になってもたくさんの不動産を持っていた
叔父さんはびくともしなかった
そしてそんな世渡り上手な叔父さんが膨大な貯金を銀行に残したまま
独身で家にこもりごみとなんだかわからないものに埋もれて
一日中同じ椅子に座りつづけたままになってしまうなんて思いもしなかった。
ある日確かインドネシアのどこか小さな島に行って帰ってた
いつものようにお土産をくれたがどことなく憔悴して見えた
気味の悪いことが起きるときには何かの発端とか兆しがありその時 新聞紙にくるんであった木の船の御土産を開けると中から大きな虫が出てきた
赤いまだらの斑点がある虫で今目覚めたというように走り回り母は半狂乱になって家中大騒ぎになった
私と叔父さんだけが黙っていた 私はなぜだかその虫が何かの使いで叔父さんの後を追ってきたように感じた 異質なもの事には出発点がありぞっとするような感じがある
叔父さんは父が虫を殺すまで突っ立って無表情でいた
その時に何かの覚悟をきめたように思う
それから何もかもが少しずつ変わり始めた
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