第10話 ボクらの秘密基地


ボクは コリスのルウ

まもなく今年も終わる どうだったかな このいちねん

ボクは、よくはたらいたよっ


さあ、今夜はなにやら 決戦の時

ボクたちは一列になって 祈るように見守っている

あるものは腕組みをして、あるものは握りこぶしを作って


見つめた先では、葉月先生が

この真冬に ホースで庭に水を撒いているんだ


それはどこか 静謐な儀式に似て

(こういう言葉はフウチに習うんだよ 意味合ってるかな)


月の光がななめに射し込む スポットライト

檸檬を絞った果汁色の 半透明のリボン


ぽっかり出現した 雪のドームに向かって

先生が水をかけると、ふわって水しぶきが広がって

白い空気の層に包まれたように ゆらゆらゆれて光と遊ぶ


もう賛美歌を歌うしかないでしょ

心の中で手をつないで ボクらはハンドベル隊になった


じっと待っていた 先生の力作が完成するその時を!

それはすなわち 『ボクらの秘密基地』になるのだ!



再び 朝日の中、まぶしいほどの完成形

そこには、神々しいほど光り輝く 美しいかまくらが出来上がっていた


ボクたちは確信した これは傑作だ 安心して眠りにつこう

じゃあね、また夜に!



ここは、葉月先生の庭だよ

日が暮れる頃から こそこそ、かさかさ

何か運搬している音が あちこちから忍び寄ってくる


何の準備かって?

今夜はね、クリスマスライブパーティ!


森に棲む大半の動物たちは、もう冬ごもりをはじめてしまった

春までバイバイの宴は もう先月やったんだけど

今回のは 人の家住まいの子たちの宴 


玻璃の音の森には 色んな動物がいるんだよ

中には 月のなまえみたいな奴らがいて、みんなミュージシャンなの


人間の神様は 10月に会合してるっていうけど

動物のアーティストの集いは、特別に無礼講

ロックスヌーピー主催 ウッドストック司会のフェスだよ


はいっ 出演は

うっかりイースターエッグのうさぎ、卯月

さっぱり素麺振興会のかわうそ、皐月


なしなしコンビは、梨と洋梨みたいな体型の

水無月、神無月コンビ

ぷかぷか浮いているよ くらむぼんか


ふって耳元でささやく男前のオオカミ、文月

長きに渡り君臨する髭のキツネ、長月

下ネタばかり喋る白小鳩、霜月


集まると、妙にオーラがあったりする



一方、かまくらの中

ねぇねぇ、葉月先生ったら 今日ここに入って紅茶飲んでたよね

クリスマスに、ちょっと車の運転があやしい同僚の先生と

なんか甘い雰囲気じゃなかった?


今夜の話題は それでもちきり

葉月先生の家の門番のカマキリ君が

興奮してカマを振りかざして みんなに迷惑がられてる


ここは小さな空間なんだから 気をつけてよーって

おまえ冬眠したら? なんて口の悪いとかげたちに言われて

ちょっとシュンとして かわいそうだった

でも、目が負けてなかったね


ボクらも合言葉を作ろうよって 誰かが言い出した


アオダイショとシマヘビィは、いたずらっぽく

「ひらけー、まぶた」は? って言って

ねてるかえるくんの まぶたをつついてるし


イタチちゃんとオコジョちゃんは、夢見る瞳で

「もふもふ、さいこう」って

ふかふかクッションの上で 交互にジャンプして

男の子たちの目を♡にしてる


でも、誰も先生たちのようなロマンチックなことは言えない

いや、あれは言えないでしょ、マジテレちゃうよ


今、ボクのとなりには、みみずくちゃんがちょこんとすわってて

とんがったみみのかたちに合わせた 毛糸の帽子かぶっているんだけど

黄色とクリーム色のしましまに、クルミのボタンがついてて

ますますかわいいの ホォ


あれ、今日はなめくじちゃん 欠席かな

ああ、凍った道ではバイクが使えないのかな

今度は思い切って迎えに行ってあげなくちゃ


葉月先生もたまにはどお? 自分の庭で演奏とか、気にならない?

実験ばっかりしてないで見てよー

窓硝子をコツコツしてみる あれ、真っ暗だな 留守なのかな


ボクらの森は、今年も平和だった

来年もこんな風に笑っていられたら いや、笑っていよう!







*こりすが「クロード葉月先生の徒然日記」にやたらお邪魔しているので

 今年最後のお話に、ちょっぴり葉月先生の庭を拝借しました

 かまくらは、日記の第4話「かまくら」に連動しています 

 こりすは、あちこちをつなげる 妖精さんみたいな子なのです ♡



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