第11話 冬に見送るさよなら
こりす書房のコリスの冬は忙しかった
12月のクリスマスが近づく頃、コリスはサンタ帽を毎日かぶって
街中で鐘を鳴らしながら、砂糖屋のクリスマスケーキの宣伝をしていた
だいすきなクリームを 休憩中になめさせてもらえる 嬉しいお仕事
年末年始が近づいてくると お掃除依頼がたくさん舞い込んだ
中には コリスのしっぽを見つめて、お掃除はこのしっぽで?と
真面目な顔で聞くお客さんがいたりして、そのたびに
コリスは しっぽの毛を逆立てて、ちょっぴりフンガイしていた
それから、毎朝 助っ人で請け負った 新聞配達
氷の道を スケートでスウスウすべりながら お届けできるから
夏の5倍の速さで配れたんだって
でもね、速過ぎちゃって、時々お宅を通り越しちゃったりして
そんな時、バックターンできゅきゅきゅっともどるのが カッコイイ
大晦日の日は 年越しそばのチュウモンがひっきりなしで
コリスは厨房で 葱きざみのお手伝い 山積みのねぎ
目に沁みる 涙が出る 葱の香りにツンとして目が回る
今年最後にふさわしく 除夜の鐘を聞きながら がんばるコリス
*
お正月くらいは ゆっくりできるのかと思ったら
神社で巫女さんのお手伝いをしていたよ
おみくじの番号を見て 引き出しから運んで来るんだ
ぼくと粉雪さんも 初詣に一緒に行って コリスを見かけたよ
粉雪さんは着物姿が似合って、とても可愛らしかった
彼女が引いた 96番のおみくじは 末吉だった
コリス、頼むよ、大吉になるよう 念を入れてくれなくちゃ
* * *
ボクは コリスのルウ フウチの相棒だよ
冬は いっぱいお仕事が舞い込んできて 忙しかったよ
お正月が過ぎたら、春の七草を摘みに行ったり、鏡餅を割ったり
日本はこの時期、行事がいっぱいで やることたくさんだよ
でも、なんだかすてきだよね 冬にしかできないこと
昨晩は、一大イベントの豆まき 赤鬼の役目を終えて
やっとひと段落かな ボクもなかなか大変だったけど
こどもたちは ちっちゃな赤鬼を見つけるのが 一苦労だったろうね
ボク用の恵方巻も準備されていて おいしかったよ
*
最近、フウチは 玻璃の音*書房に 顔を見せないんだ
誰といるか知ってるんだけど、声をかける雰囲気じゃないんだ
すこし前は ボクも一緒に氷のリンクで くるくる回っていたんだけどね
もうすぐ 粉雪ちゃんが 遠いところに行ってしまうから
フウチはめちゃめちゃさみしくなって 混乱しちゃったんだよ
もう見ていられないくらいなんだ
ボクは こっそり夜中に 粉雪ちゃんのとこに行った
ボクもね、時々 雪の結晶を見せてもらっていたんだよ
もちろん ひとり(一匹)だけでね
一緒には来ないのねって、粉雪ちゃんは笑うんだけど
オトコにはさ、一人だけで訪ねたい場所ってもんがあるんだぜ
ボクも あの最後の夜、そっと木の上から
雪の結晶が 空に還ってゆくのを見ていたんだ
横には なかよしのみみずくちゃんが 涙ぐみながらホォって鳴いてた
きっと森のどうぶつたちはみんな 空を見上げて
かわいい二人の別れを 惜しんで見送っていたよ
*
列車が行ってしまって、駅に来ないフウチを心配した
クウヘンさんに 君の居場所を聞かれたから
ボクは きっとみずうみって 教えたんだよ
迎えに行かないと戻って来ないような気がしてしまった
だからね、ボクも一緒に 相棒を迎えに行ったんだ
あの夜の 雪の瞬き、星のきらめき、氷のささやきを
ずっと 忘れることなく
ボクは これからも フウチの側に いるよ
* この小さなお話は 「玻璃の音*書房」 冬のものがたり
第34話「粉雪さんの涙」・ 第35話「春の音と花束」と
つながっています。コリスの目から見た フウチの冬の日々。
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