本編 第四局 東の國 戦場は阿武隈高地 拡がる病の元を断て!

第三十四首 眠りひめ 夢はうつつと 微睡みて まがこと知らず 寝息を立てて

 やれやれ。


 やっと目を覚ましたと聞いたので、時を待たずにここに来るかと思っていたが、新人の折り媛殿は、私の見立てより幾分か繊細であったらしい。


 この非常時に二度寝とはなんとも羨ましい。


 幼少のみぎり、この私、土師はにしのてるのお嫁さんになるとか寝言を言っていた小娘が、少しは成長して立派になったかと思えば、このように無様を晒すとは。なんとも不甲斐無い話である。


 お姉ちゃんはちょっと悲しいぞ。 


 聞くところによると、折り媛の御役目に就任したとしても、自分の懐には一銭も入らないと知って、仰天して意識を失ったそうな。


 ただの女子大生の小娘ならそれも許されるが、その身はもう折り媛。人の上に立って配下の者達を引っ張っていかねばならない身。シャキッとしてもらいたいものである。


 現に、この瞬間も事態は刻一刻と悪化していて、我が方のお見方たちも方々ほうぼうで忙しく活動している。


 関東、東北に拡がる病気蔓延の抑え込みのため、その原因になっている龍脈の乱れを正すべく、愛宕山十三天狗に因むEX13人衆は、すでにパワースポットとなる各山や渓谷に向かっている。


 また、他のお見方側の呪術師たちは、物見の式神や使役した妖などを使い、情報収集に勤しんでいる。


 私、土師てるは関東の呪術師たちの総領として、ここを仮の司令部にして、お見方の方々に様々な差配をしているところである。


 しばらくすれば、新設の司令部の準備も整うだろう。そうなれば、新たに折り媛となったすみれを首座に据えて、関東だけではなく日本全国の総力を挙げて、問題解決も可能となるだろう。


 とはいえ、肝心のすみれはまだ夢の中。


 故にすみれが目覚めるまでは、この私、関東総領たる土師はにしのてるがその代わりとなって、事態を噛み砕いて説明せねばなるまい。



 そんな時のこと。


 […ザッ…こちら米川。後数分で指定されたポイント付近に到達予定。本部どうぞ]


 「こちら本部。土師だ。米川、八雲和歌と八重垣唄コンビも別のポイントにもうすぐ到着する模様。そちらも気をつけろよ、罠だと思って対処しろ。どうぞ」


 […ザッ…了解。もとより承知の助。米川、杉森共に式神アクセスドライバーと、メモリーの使用承認よりしく。どうぞ]


 「了解。変身を承認する。手加減はせんで良いぞ。どうぞ」


 […ザザッ…その心算です。通信は繋げておきます。式神での支援よろしく!]


 […ザザッ…お話し中失礼致しますの。こちら和歌ですの。こちらも参りますわ。御爺様たちに式神での支援をお願いするとお伝えくださいませ。どうぞ]

  

 「和歌か。言われた通りに伝えるぞ。そちらは頼むぞ。どうぞ」


 続けざまにEX13のメンバーから、敵の龍脈操作の拠点に近付いたとの連絡と、変身承認を求める連絡が入った。


 重ねて言うが、すみれが国土管理室ビルで戦っている間に、我々はすでに独自の活動を開始していた。


 まずは敵が密かに造営していたと思われれる鬼神塚の排除だ。


 関東全域、及び東北の関東寄りの地域。そんな広範囲で大規模な事件を引き起こすには、膨大なパワーを必要とする。そのことは素人でも想像できる範囲だろう。


 件の敵方の道士たちによって、龍脈を操作する鬼神塚ネットワークが形成されていなければ、病魔を操る術師に霊力を送れない。術者はすぐに燃料切れに陥るだろう。


 私たち関東の呪術師は、昨日の深夜の時点でそのことに気付き、各地に式神を間者として放ち、龍脈を操るために最適と思われる地域に派遣していた。


 今回、EX13を派遣したのは、その鬼神塚があるらしき場所を、その時に発見していたからだ。


 さらに、もしかしたら敵の首領格は海上にいるのではと、空飛ぶ式神を日本海に派遣してみれば、見事に首領格の乗る仙閣を発見した訳である。


 しかし、大将首発見と勇んで攻撃を開始したら、敵方に使役されていた澱みの龍に遭遇し、逢えなく敗北を喫したという次第だ。


 「もう、海上での戦いのような失態を繰り返す訳にはいかん。頼むぞ!」


 「ザッ…了解!」


 「ザッ…ザザッ…もちろんですの!」


 その通りなのである。鬼神塚の破壊くらいは私たちだけでやり遂げられねば、事態の収拾、病人の症状の回復など夢のまた夢である。日本の国土を守護するなど言うだけ烏滸がましい。


 二度連続で敗北したら、私自身も関東の総領として立場が無いし、すみれに会わす顔もなくなる。それは無論、配下の関東の呪術師たち同様だ。


 そのことは、EXの米川、八雲たちも十分に理解しているようだが、万が一の事態にならぬように、私は最新型の戦闘用ジャケットを複数、彼等に渡してある。


 負けられない戦いがそこにあった。

 

 私こと土師てるは、EX13たちにかならず勝ってくれと念を送りつつ、遠隔で式神を操る呪術師へと支援要請の連絡を入れた。


 [ザザッ…トロピカル! & サーファー!]

 

 [ザッ…ベジタブル! & ファーマー!]


 [ザッ…ブラックキャット! & セーラー!]


 [ザザザッ…バニー! & ブレザー!]


 [変身!!!!]×4


 通信機の向こう側から、戦いの衣装を身に纏う勇ましい男女二人ずつの声が聞こえた。

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