折り媛 ~純日本式呪術奇譚~

@byakuennga

プロローグ&エピローグ

第一首 薫風に 七五三て七々を 諳んじる 桜色づく 早春の頃

 はじめに。

 実質の第一話は第八首からです。

 ネタバレ無しで楽しみたい読者は、そちらにどうぞ。


 さて、プロローグと一体のエピローグを最初に見せてしまう意図は、主人公と、物語の最後にしか登場しないヒロインの紹介が大部分です。

 それと、本編がほぼ戦闘ばかりなので、最初と最後くらいは平和な時期を描写しておきたかったからです。


 それから、下記のような方々にも対応してみました。


 もうハッピーエンド詐欺はコリゴリ。長い文章を読まされて、最後の最後にバッドエンドとかないわ。


 楽しみはラノベ以外にもいくらでもあるんだ! 


 言われてみれば確かにそうかなと。


 そんなバッドエンド疲れの人々のためにも、こういった構成にしました。


 その点は安心してもらおうかなと思います。


 安心は大事。


 古事記とかの古文書に、そう書かれているかはしらなーい。


 また、タイトルに純日本と銘打っているのに、なんで大陸の道士やらが登場しているのかとの疑問ですが、歴史を鑑みるに、日本は有史以前から大陸の影響を受けているからです。


 そういったことも含めて純日本としています。

  

 なお、タイトルにもなっている折り媛とは、武士で言うなら征夷大将軍ポジションです。帝の代理となって、水害と共に現れる怪異から国を守護する場合のみ、日本中の陰陽博士などの呪術師たちに、号令を発することができます。


 他にも、飲酒が選挙権に合わせて18歳から可能になっているなど、この作品世界は我々の知っている世界とは若干違っています。


 その点は御了承ください。




 では、始めます。




 春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。


 枕草子で清少納言が描写した春の曙の様子だ。


 春夏秋冬と続く文章のはじめに、きっちり新しく事態が進展することを意味するを、最初の春の描写に持ってくるなんて流石である。


 いやあ、読んだり考えたりする都度に発見があって、古の書物は本当に文化遺産としてすばらしい。


 「うん。勉強になるなあ」 


 その日の早朝、私は温暖な気候となってきた山道を歩きながら、ちょっと大人びて枕草子の一段目など思い出し、そんな風に呟いた。


 視線を上げると、清少納言が千年以上前に描写した通り、遠くの山々の稜線に紫懸かった雲がたなびく。


 しかし、本当に暖かくなったものだ。少し前までは空風に身が竦む想いをしていたのに。最近は早朝も暖かい。


 趣味の日本の野草集め…植物を近場の山々から採集するプラントハンターの真似事も、一段と捗るというものだ。


 「山桜も一層綺麗ね」

 

 そう呟いた通り、それほど遠くない辺りに見える山桜は美しく、鼻腔をくすぐる香気もまたかぐわしい。


 私は春の訪れを告げる薫風に誘われて、和んだ気持ちとなり一首詠んでみることとする。


 薫風に 七五三て七々を 諳んじる 桜色づく 早春の頃 


 ああ…もう桜の花も色づく、桜月なのだなあ…と。


 「弥生ちゃんは桜月~♪ 桃見月~♬」


 散策の道すがら、数字遊びを絡めた一首を詠み終えた私の気分は上々だ。調子はずれに陰暦三月の異称を並べて歌い、ずんずんと軽快な足取りで山道を進んでいく。

 早春の瑞々しい草花を踏まぬ様に避けながら、普段進む山道とは別のルートを選んで。 


 今日ばかりは御山のお堂に四季紙で折った人型…碧奇魂あおくしたまを奉納はすまい。


 もう神代より日ノ本の國の呪術師の宿敵であったは、先年での決戦の末に、黄泉送りとしたのだ。


 決戦の勝利者として、少しばかり手を抜いても許されるだろう。 


 せっかくの休日まで折り媛の御勤めばかりでは気が滅入る。たまには気分転換も必要だ。


 必要だったら必要なのだ♪


 誰にも邪魔はさせません♫

 

 私は左右に連なる山桜を眺めつつ、ぐるりと御山を一周して、様々な植物の様子を楽しむことを決心した。

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