余韻

 「彼に会ってきた」サラは事務所の扉をしめながらイザナキに報告した。今は彼しかいない。

「そう、で?」イザナキは書類に目を通していた、目線だけをサラに向ける。

 彼女たちがいるこの一室はもともと軍の施設だった、今はそこを間借りしている。

「意識もどって少し話をしたわ」

「何か言ってた? ひっかかったからわざわざ病院まで行ったんだろう」

「うん、変なこと口走ってたけどどこか打ち所が悪くておかしくなっちゃったのかもね」

「なんだそれ、……あの状況だ混乱くらいするだろ」

「それがね、あんまり言いたくないんだけど自分がやつらへの切り札だって言い出した」

「え?」少しの沈黙。「興味深いな、あの状況で一人生き残った。本当なら我々にとってはこの上ない人材だ」

「本物ならね」

「案外やつらと関係があったりしてな」

「まさか」

「冗談だよ、しかしまあ生き残ったのは事実だ」そう言い終えるとうつむき黙るイザナキ。

「そういえばあなたのことも聞かれたわ」

 顔をあげ、目が見開く。今の報告は予想外だったようだ。

「俺のことを質問したということはあのときもまだ意識があったということか、大したもんだ」

「なによその感心の仕方でも彼、やつらについては何も質問してこなかった……そこは変ね」

「案外さっきの冗談があたってるかもしれないね」

「ない、そんなことがあるなら苦労はしない」

「たしかに」立ち上がり横にある荷物を漁る。

 最初の遭遇。”敵”と我々が認識した固体を仮称睦月の1号と呼んでいる、そこから進むこと約2ヶ月現在昨日の固体、仮称ヤの5号にて大小併せた”敵”との遭遇は通算8体目になる。

 やつらについてはその目的や行動原理、知能の有無など詳しいことは何もわかっていない。やつらは空から落ちてくる。どこに落ちてくるのか対象が小さいため観測し予測するのは困難だった。

「少し出てくる、何かあったらよろしく」そう言うとイザナキは人の背丈より少し小さな黒いケースを抱えて出て行った。

 サラはイザナキの机の対面にある自分の机に座ると昨日の戦闘の報告書に目を通す。死亡4、軽症1、名前の欄にカガナ イシキと書いてあった。

 「変な名前……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る