第2話強がりはほどほどに

 一つの大陸に、二つの国があった。フールとコロア。両国は犬猿の仲で、幾たびの争いを繰り返す。その戦いが何故起きたのか。何故、争い。戦争をしなければいけないのか誰も解らなくなったぐらい時が進んだころ。

 フールの町外である事件。もとい喧嘩が起きていた。

「もう一回言ってみやがれ。この貧乏人(ホームレス)」

 男は剣を抜刀し、一人のマントを被った貧乏人に向ける。貧乏人は座ったまま、ただ舌を俯きながら答える。

「ちッ、聞こえなかったのかよ」

 貧乏人は、マントの上からポリポリと頭を掻く。マントは所々破れており、既に、泥と埃に塗れていた。貧乏人の頭を掻くという行動は単なる爪に泥と埃を入れてしまう行為だった。

「よっこらせ」

 貧乏人が近くに置いていた棒状の物を杖として、立ち上がる。そして、男の構えている剣が喉に刺さるかどうかという絶妙な位置に立つと、臆することなく言い放った。

「お前の粋がってる所を見ると吐き気がするんだ。とっとと、離れるか死んでくれよ」

 男の顔が怒りで徐々に真っ赤になっていく。男は町中にまで響くのではないのかという声で怒鳴り付ける

「俺は、コロアとの闘いで十人と、知将を一人打ち取った英雄だ。俺はこの国に貢献をしたんだ」

 よく見れば、鎧にはいくつもの傷が出来ており、剣の刃もボロボロにかけている。だが、少女は鼻で笑う。

「たかだか、十人と恥将を打ち取ったぐらいで、あ、恥将のちは恥ずかしいの方な」

「きっさま‼」

「まぁ、冗談だ。聞き流せよ。だけど、それはお前が誰かを斬った剣ではないな」

 男が何かを告げる前に貧乏人は話を続ける。

「まず、剣がふらついているぞ。剣を持ちなれてない証拠だ。そして、そのふらついた剣が私の喉に刺さらないように、腕に無駄な力が入っている」

「な‼」

「鎧は傷が付いているが、全部古い。確か、最近フールとコロアが戦争をしたのはここまで届いている。その傷は余りにも古いから、剣と鎧は譲り物か何かか?」

 貧乏人は男の全てを語る。マントで顔が隠れているのも構わず、不敵の笑みで笑う。

「お前がここに来たのも、私みたいな貧乏人をいたぶる為じゃないのか?前回の戦で何にも戦火を出せずおめめと帰って来て、それで憂さ晴らしにきた。」

 男は、そのまま剣を突き出す。そう、貧乏人が言っていたことは正しい。剣や鎧は御下がりだ。人を殺す度胸も実力もない自分は何かで自信を持とうと思った。上官に相談した所、ここでいたぶるのがいいと教わった。町の外だから人はあまり寄り付かない。いたぶろうが、何をしようがそれこそ殺そうが誰も気にしない。そんな連中ばかりだ。だから、これで終わりと男がそう思った瞬間。

「図星か」

 剣を紙一重で貧乏人は躱す。だが、マントが取れ、貧乏人の顔が男にははっきり見えていた。

 黒髪の若い女。綺麗な顔立ちをしており、また、蒼い瞳がこちらをまっすぐ見つめている。この国の人間ではないことが分かる。三つ編みにした黒髪が揺れる。美しい女だ。そう思った瞬間。男の視界が揺れる。男には何が起こったのか理解できず、気が付けば地面に倒れていた。


 少女は、落ちたマントを拾い身に纏うと、男の身につけていた金目の物を物色し始める。

「マントの修理費と食事代。後、宿代だな」

 そう言って少女は、男の下着以外の物を全部物色する。

「とりあえず、闇市に売ればそこそこの金になるだろ」

 最悪でも、マントだけでも買い治せる金が欲しかった。飯にはいつでもお目にありつける(盗む)が、マントで顔がバレては、それが難しくなる。少女は、ボロボロの剣と鎧。適当な金目のものを器用に持ち、その場を離れる。横たわる男を見ながら少女は思う。

 勿体ないことをした。

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