殺人姫

綾咲彩希

第1話プロローグ

 私は殺人鬼だ。

 人を殺すことに何の違和感も疑問も感じない。

 何故、人を殺すのかと問われれば、私達は迷うことなく答えるだろう。

「人を殺したいから」

 何故、人殺しがいけないのか。哲学や道徳を殺人者(わたしたち)に述べても理解は出来ない。息をするように人を殺し、整理運動の様に人を殺す。解りづらいなら例をあげよう。

 

 ここに一人の人間がいる。家族、恋人、親友。同じ歳くらいでもいいし、離れていてもいい。同性でも異性でも構わない。他人だろうと知り合いでも、どうでもいい。とにかく、同じ人間。

 同じ人間が、例えば今にも死にそうな状態。または、まったく怪我なくピンピンしている状況。で、拘束されている。または、人に襲いかかれない。完全に無害な場合として。

 君はどうする?


 君の手には、人を殺せる何かの武器がある。必ず、殺せる程の武器。一撃。たった一撃相手に喰らわせるだけで相手が死んでしまう、そんな武器。ただ、条件は人を殺した感触が必ず残る。

 君はどうする?


 君は誰にも強要されていない。誰にも脅されてはいない。自分の意思でそこに居る。君は、その人間を殺す理由はまったくない。なんなら、人間には家族が居るとしよう。居なくても構わないが、単なる条件付けだ。

 君はどうする?


 その人間は君を見て、「助けてくれ」と泣き叫んでいる。もしくは、物欲しそうな顔で君を見つめている。君が殺すと怯えているかも知れないし、はたまた救世主のように思って君に希望を持っているかもしれない。

 君はどうする?


 殺せば、血は噴き出し、心臓は止まり、人間はもう二度と動くことはない。

同じ人間を。完全に無防備な人間に。殺す理由がない人間を殺すことは出来るか?

 私には出来ない理由が解らない。そこに人が居る。無防備。反撃はされる心配がない。家族?親友?恋人?はっ、知ったことか。そこに人間が居るなら殺さなきゃいけない。衝動に駆られる。ただ、殺したい。理由なんて要らない。必要ない。断末魔なんて聞けなくてもいい。人が死ぬときの苦悶の表情なんてどうでもいい。そこにある「死」なんていらない。ただ、殺したい。

 それが私達、殺人鬼。いや、私の場合は殺人姫。

 人を殺す姫の衝動なのだ。

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