「復活の乙女」その5

「君が結論を出した時が、終わりのときだ」



「終焉、ということですか?」



「だって君は邪眼、私はオオカミ男、落ちのびる先はない、いや、そこは地獄と決まっている」



「地獄……参りましょうとも」



 二人の額の蒼い鱗状のしるしは、この世から逸脱した「邪眼」もしくは「狼男」のしるしだと、リリアが言った。今は彼女の力で封印されている。



「恐ろしくはないのか」



「王子と一緒なのでしょう? ボクのパワーは百人力です」



「そのときはリリアに頼んで封印を解いてもらわねばなるまいな……仕官か」



 できるかな? 果たして騎士位も持たない者にそれは、よほどの戦果を挙げねばなるまい。



 本当は地獄なんて嫌だけれど。


 恐ろしいところだけれど。



 リッキーは王子と一緒なら、とけなげに考えた。



「どう、思われますか? 争いは魔物と同じだと思われませんか」



「同じだな。宮中でさえ、女の口げんかはよそでやれ、と思ったことがある」



「そうですか。ボ、わたくしは不肖ながら、心が壊れるかと思うほどすさみましたよ」



「意外とかわいいところもあるな」



 王子はリッキーの話を真剣に聴き、視線を合わせたが、そこになにも浮かんでいないのを確かめて、今は大丈夫なのだろうかと思って謝罪の言葉を口にした。



「いやすまん。そこまでは知らなかった」



 するとリッキーは眼を細めて穏やかに言った。



「お互い様です。わたくしも、いえ、だれもあなたと同じではない」






 そのやりとりの後だった。



 一国の王子が姿を消した、との知らせが城内を駆け巡った。



 宮中で育ったのだ。


 外に知り合いがあるはずもない。近くの宿屋に潜伏でもしているのか、では原因は何だ。



 マグヌスとマグヌムのせいなのか?



 王はたいそう、気に病んだ。


 城下では寂しげな空気が雑多な物音に混じっては消えてゆく。


 だが、心配はいらなかった。


 部屋にハートのエースとジャックのカードを赤い糸で結びつける可愛らしいおまじないを置いて、二人は手を携えて、再び泉をおとなっていたのだ。


 王子は口説いた。



「同じ呪われた者同士ならば、二人ではどうだ? 君は父王の『華』だから、宮中に閉じこもっていても、まるっきり問題はない」



 だが、私は見たい。



と、王子は言った。



「君と二人で見る景色を、再び」



 修羅の道を行くか、花園にとどまるのか、すべては君しだいだ。と……


 リッキーの方はというと、言われてみれば一年後の勤めが終わってからの寄る辺がない。彼女は王子について行くことにした。



「王国唯一の王位継承者が出奔か……面白い。あなたとなら、どんなにか珍しいものが見られるでしょうか」


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