「復活の乙女」その4

 性格が反転したのであれば一刀の元に切り捨てられても文句は言えなかったろう。



 彼女は内心冷や汗をかいた。



「これがなければ、君はいつも会う友人のように、私に接していたわけだな」



 王子はもう一度残念だ、と額の印をこつこつと指先でつついた。



「きょ、恐悦至極、で、ございます」



 慌ててポットをテーブルに置き、直立不動の姿勢を崩さず、反り返らんばかりに胸を張った。



「それだ、君は今は文句を言うところだった。うぬぼれるな、ってな」



 へろっと笑うので、てっきり逆の方向へ性格が反転したのかと思った。



「着脱可能だといいですね、そのアタマに生えた羽根」



「イヤミか、大成功だな。ムッときた」



「正気に戻るときがないと後始末が大変です」



 と、ハーヴティーをこぼしたテーブルを拭くべく、たたんだ布巾を取り出した。



「君の大層できあがった物言い、さては子供の頃は相当だったろう」



「野猿のようでしたよ」



 それがなにか? と、なにも気にしない言い方。



「君の友人は大変だったろうな……」



「なにが仰りたいのでしょうか」



「いや……想像してみたのだ。いったいどんな子女が木に登って野を駆けずり回るのか、とな」



 リッキーはむせかえって咳き込みながら胸を叩いた。



「ああ、すまん。ひょっと、思いついてな。深い意味はない」



 それよりも、と、王子は付け加える。



「こいつはだれにも秘密にしておかなきゃならない。城下でも宮中でも」



 リッキーは深く息を吸い込んで、思い切ってくだけた調子で言ってみた。



「ね、王子? いっそのこと、この秘密を知る者を片っ端から狩っちゃわない?」



 王子は頷いたが承認の意味ではなかった。



「君も毒されてきたな。そうだ、それが呪の効果なんだ。私はまだ理性が働いているから考えないようにしているが」



 が、と言ったのである。



「リック、いやリッキーに言われると心がぐらつく」



 リッキーは息を一気に吐いてしまうと反省するように言った。



「よしましょう。こうなったら他の国に落ちのび、戦争をしている国に行ってたくさん人を倒して、末に仕官するのは?」



 リック、と再三、王子はリッキーの呼び名を間違えた。が、リッキーはそう呼ばれるのに抵抗を示さなかった。



 今更、ということもある。



「クール、かとも思えばクルーエルで、どうなっているんだ、その頭は」



 ため息のようにいわずもがなのことを言う王子。



 性格が反転したというより、破綻したといった方がふさわしい。



 リッキーの心の中では、人を傷つけたくない優しい心と、都合の悪い者を全て抹消すべきだ、との思いが対立し、渦巻いていた。



「あなたもご覧になったことがおありでしょう、人と人が争う様を」



「当然、あるが」



「わたくしの中でも同じことが起きています」



「いったい、どちらが優勢なのだ」



「わかりかねます、王子」



「ならまだよい」



 今度は安堵の目で王子は彼女を見た。

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