「泉ののろい」その6

 さすがに目立ちすぎるので城内までは飛んで行けないという。



「彼らは急ぎたいようだが……」



 草原を彼女らは歩いた、不意にサフィール王子が身を乗り出した。今度は要領を得て、アレキサンドラは目をつぶる。


 その意味すら知らずに……


 それはほんの一瞬のことだった。



「陽が落ちきらないうちに、城下の門までは行きましょう」


 白蛇が宙を浮遊しながら皆を促した。



「宰相殿、わたくしたちは一体どこに捕まればいいの?」



 すると、


 ふわあっと、真っ白なたてがみが現れたので、それにつかまらせてもらった。


 夕日に燃える天の下、五人の帰還者が空に舞う。


 さすがなアレキサンドラも、王と王妃と宰相と王子と連れ立って歩くのはやや迷惑で、ほぼ全員が寒さを訴えるので早々とリリアの店へと押しかけた。 


 かと思うと、王は早速注文をつけ始めた。



「嬢ちゃんがださい、友達に会わせられない! っていうんで、今時の衣をしつらえちゃくれないか。あと、風呂な」


 王は冗談めかして言った。



 何も聞かないリリアにアンジュが微笑みかけた。


「星読みのできるあなたには、前もって知ることができたはずよね? これでも頼りにしてるの」



「なにしろ穢れた泉の泡と一体化していたからな。参ったまいった」



 リリアは暖炉を暖めて五人を招き入れはした。


 そして素早く戸を閉めてしまうと、つかつかと娘に近づきその頬をひっぱたいた。



「お母……さん?」



「ひどいことをしたでしょう。寒空の下、王子をひきまわして、大変なことをした。おまえは幼い頃から心配ばかりかけて」



 アレキサンドラは大きく目を見開いて、



「心……配なんて、してくれていたんだ」


 ぽつ、と言ってアレキサンドラは澄んだ涙をこぼした。



「せっかく私に似た美人なのに、ちっとも女の子らしくなくて。せっかくルイに頼んだのに、男の子同士みたいになってしまったというし」



 それは申し訳ないというか……アレキサンドラはその場に伏してあやまりたくなってしまった。自分のせいでここまで母が気を配っていてくれたとは。



「ルイ坊やはね、おまえのことを花乙女になるまでおまえのことを親友だ、なんて言っていたのよ」



「事実、ボクもルイは親友だと思っているけど」



「ならば、どうしてルイでなく王子と連れだって行ったのです」



「それは……偶然というかルイとの接点が祭りからこっち、疎遠になってしまって」



「せっかく花乙女になれたというのに。花ですよ? 『華』なのです、おまえは本当にわかっていない、なにも」



「お母さん、何故そんなにこだわって……?」



「……王を選べとは言いませんが王子をというのは一番最悪の選択です。飽きられれば終わり。一生誰とも結ばれない」



「選ぶとか、最悪とか、子供は教えられないことはわからない。どういうことなの?」



「私はそれを教えるために祭りの日、花園を散々、探していたのですよ!」



「ごめん、お母さん。花はリリーが見繕って来てくれたんだ」



 アレキサンドラの頬がまた一つ赤くなる。

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