「まじないの剣」まだ続きます

「そ、そもそも女は男より余計に肉がついているから、この寒さが理解できないんだ」


 顔を真っ赤にしながら、王子は余計なことを口走る。


 照れ隠しらしいのだが、アレキサンドラは彼を突きのけた。


 真っ白な吐息を吐いて、彼女は怒っていた。


「あなたの国の民は、これ以上に厳しく、辛い思いをしているのですよ! 心まで!! 今にも凍りついてしまいそうなんです!!!」


 すべて、王という太陽を失ってしまったがためだった。


 彼を失ってなお、人々は暮らしている。


 朝に起き、食事をし、昼に働き、夜に眠る……。


 当たり前のようなこの暮らしは、戦争に勝って、王が民に与えたものだった。


 だから、民は王を忘れず、いつまでもその帰還を待っている。


 いつまでも。


 愚かしくさえあっても。


「善政をしく父王だからなのだ。城の皆はわたしには見向きもしない。玉座をまもるどころか、冷たくあしらわれている……」


「王子……」


「詩人のまねごとも、最初は楽しかったよ。子らは父王礼賛の唄をことさらに喜び、ねだるのだ。だれも、わたしに気づきもしない」


 それは……と言いかけ、くすりと笑うアレキサンドラ。


「王子のりりしいお姿に、だれが気安くできるでしょう。王礼賛の唄、わたくしも聞いてみたい。そこにはきっと、あなたしか知らない王がいるのでしょう」


 まだぶつぶつとこぼしている王子をよそに、アレキサンドラは軍馬から荷を降ろし、周囲の枝を払い、枯れ草を多く集めてきた。


「何を……しているのだ?」


「少し、休みましょう」


 彼女は言葉少なにそう言った。


「そ、そうか……」

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