「まじないの剣」続きます

 そんな水蛇は見たことがないなと、首を傾げるサフィール王子。


「なぜ今なのでしょう? 人々の不安につけいるように。取ってつけたような、もうすぐにでもほころびが出てきそうなお話です」


 ざわり、と森の木々がざわめいた。


 アレキサンドラの声がいんいんと響いた。


 さすがに休憩を入れねば、と思っていた矢先のことだった。


「ですからね……」


 と彼女は続けたかったが、王子が本格的に凍えそうに震え、岩場から足を踏み外しそうになったので、慌ててその腕をとり、引き上げた。


「あ、ありがとう」


 彼女はマントのボタンを全て外し、王子をその内側へと引きこんだ。


「腕をわたくしの背にまわして……」


 そして、すっぽりと彼の体を包んでしまうと、彼女は言う。


「申し訳ありません。あなたは温室育ちで寒いのは苦手の御様子。配慮を欠きました」


 ご無礼を、と彼女は鳥がひな鳥を温めるように、王子を温めた。


 なんだか、守らなくちゃいけないものが増えたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る