まだまだ「不吉の星」

 彼はほんの少し痩せたようだった、それが彼のなだらかだった頬に、精悍さを加えたようだ。


「おまえが困ったことになっていないかと思ってな」


 そんなふうに言うルイを、リッキーは頼もしく感じて、いつものように意地を張るのをやめた。


「困ってるさ。誰が知らせたのか知らないが、ボ……わたくしの名で荷物が届く。花だの香水だの、リボンだの。みーんな母の大好物だ」


 ルイは一笑した。


「おまえな、それな、プレゼントって言うんだぜ。みんな、花乙女の姿をしたお前に惚れちまったのよ」


「わからんな。惚れるって? 何がどうして、こうなってしまったのか」


「円舞であーんな特大級の笑顔見せるからさ」


「だって、一番前で白粉かぶったルイが突っ立っているから」


 リッキーは、思い出したようにくすくすと笑った。


「見とれてたんだよ、変身したおまえに」


「似合わないって言えよ! おかしいぞ」


 彼女は一蹴した。


 何がおかしいもんかと、ルイが真剣に言う。


 あたり一面、夏のヒナゲシが揺れて、朝霧が谷の間に漂っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る