もうしばらく「不吉の星」

 谷を一望する大岩の上で、リッキーを引き上げてくれるルイの手は、冷たかった。


「で? 呼び出したわけはなんだ」


「べつに。オレのこと憶えてるかなって」


「わすれるもんか」


「花乙女はさ……」


「なんだ、おまえまで」


 リッキーはルイの真意をはかろうと、正面から彼の目をのぞきこんだ。


 ルイは、密かにうなだれ、言葉を継いだ。


「聞いてくれるか? 花乙女は無条件で破瓜されるのは説明を受けたろう?」


「そんな話か」


「いいのかよ? 好きでもないやつに、どうこうされて!」


「どうこうされない。護身術を今、極めているところだ」


「とんでもないぞ。最後の……純潔の乙女は王に献上される。おまえはそれでいいのかって聞いてるんだよ!」


「いいわけないだろうが。王のお手つきとなれば、一生監視付きの暮らしだ。母が何度も言っていたよ。だけどなあ……おまえにそんな話をされると複雑だ」


 ルイは黙ってその顔を凝視した。


「なあ、ルイは変わらないよな? ずっと……ボクがどんなになってしまっても、友達だよな?」


 ルイは身を乗り出してリッキーをかき抱いた。


「あたりまえだ! だけど、おまえが破瓜されるなんて、ひどい目にあうなんて我慢できない!」


 リッキーはしばらく黙ってじっとしていた。


 その肩口が、ルイの涙で濡れそぼる。


「なあ……オレじゃだめなのか? オレなら、少しは優しくできる……」


 瞬間、ルイの体が浮いた。


 大岩から下草の上へ投げ飛ばされたのだ。


「いてて……」


「目は覚めたか?」


 リッキーの目は笑っていた。

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