もうしばらく「不吉の星」
谷を一望する大岩の上で、リッキーを引き上げてくれるルイの手は、冷たかった。
「で? 呼び出したわけはなんだ」
「べつに。オレのこと憶えてるかなって」
「わすれるもんか」
「花乙女はさ……」
「なんだ、おまえまで」
リッキーはルイの真意をはかろうと、正面から彼の目をのぞきこんだ。
ルイは、密かにうなだれ、言葉を継いだ。
「聞いてくれるか? 花乙女は無条件で破瓜されるのは説明を受けたろう?」
「そんな話か」
「いいのかよ? 好きでもないやつに、どうこうされて!」
「どうこうされない。護身術を今、極めているところだ」
「とんでもないぞ。最後の……純潔の乙女は王に献上される。おまえはそれでいいのかって聞いてるんだよ!」
「いいわけないだろうが。王のお手つきとなれば、一生監視付きの暮らしだ。母が何度も言っていたよ。だけどなあ……おまえにそんな話をされると複雑だ」
ルイは黙ってその顔を凝視した。
「なあ、ルイは変わらないよな? ずっと……ボクがどんなになってしまっても、友達だよな?」
ルイは身を乗り出してリッキーをかき抱いた。
「あたりまえだ! だけど、おまえが破瓜されるなんて、ひどい目にあうなんて我慢できない!」
リッキーはしばらく黙ってじっとしていた。
その肩口が、ルイの涙で濡れそぼる。
「なあ……オレじゃだめなのか? オレなら、少しは優しくできる……」
瞬間、ルイの体が浮いた。
大岩から下草の上へ投げ飛ばされたのだ。
「いてて……」
「目は覚めたか?」
リッキーの目は笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます