第二章「不吉の星」
上背のある男が、まだあどけなさの残る乙女を、裏路地に誘うなど、ほんとうは危ないのだが……。
「なんだ? こんなところへ連れてきて、ボクは娼館なんかに用はないぞ」
「用があるのは、こっちだよ」
「ふうん?」
相変わらず自分のことをボクと呼んでしまうアレキサンドラだったが、なんの用心もなくさし伸ばされた腕をひょいとひねる。
花乙女は護身の術にも長けているのだった。
さて、リッキーが手を緩めないと、彼はなんにもできないのだが……。
「おまえ、最後の花乙女になりたいのかよ。俺は前からお前に目をつけていたんだ。優しくするからよ」
と、大慌てで猫なで声を出してみせる。
「なんだ、怪しい気配がしたので体が勝手に動いてしまった。気のせいだったか……」
リッキーはにこっと笑い、
「すまなかったな」
手を差し出したが、男はそれをとらない。
「親切で人気のないところまで連れてきてくれたのだろう? それならひとつ相談に乗ってくれないか。大通りなんかじゃ話せない」
「お。おお。言ってみろや」
「……手紙だ」
男は先ほど関節をキメられてしまったことなど、コロリと忘れ、体躯を強調するように腕組みをして覗き込んできた。
「それがどうした」
リッキーは顎に親指をあてて、思案している。
「見知らぬ者から、さんざんっぱらに届くのだ。しかも、一緒に香水、花や菓子、宝石やリボンなど、食べられもしないものまで」
それがずっとなんだ……と眉間に皺を寄せて、ぼやくリッキー。
「宛名はボクなんだ。アレキサンドラとある。決して友人以上の者たちではない。友人なら、直接渡してくれればお礼も言えるのに……」
この時まだ、リッキーはそれらの高級品の意味を知らないままだった。
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